第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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2013年に抗 EGFR抗体であるセツキシマブが頭頸部癌に対して保険承認され、局所進行頭頸部がんに対する BRT( bio―radiotherapy)や再発転移頭頸部癌に対する EXTREMEレジメンが臨床に導入されて現在に至っている。

局所進行頭頸部癌に対しては BRTと標準治療である CRT( chemo―radiotherapy)との効果比較について検証がなされてきた。その過程でむしろ CDDP併用 CRTの有効性が再認識され、十分な投与総量の大切さがクローズアップされるとともにその有害事象についても改めて注目が集まっている。一方で、腫瘍のリスクに応じて、治療効果と有害事象軽減のバランスをとるという選択肢も模索されてきた。その候補として、 De―ESCALaTE試験と RTOG1016試験の結果が2018年末に公表された。これらの試験は HPV陽性中咽頭がんを対象とした CDDP併用 CRTと BRTの効果を直接比較した第Ⅲ相 RCTである。 De―ESCALaTE試験のプライマリーエンドポイントは毒性比較であり、 OSや局所制御もあわせて検証された。一方、 RTOG1016試験におけるプライマリーエンドポイントは5年 OSであり、 BRT群の CRT群に対する非劣性を示すことを目的とした。これらの試験結果いかんでは比較的予後が良いとされる HPV陽性中咽頭がんに対して有害事象の軽減につながる治療オプションと期待された。しかし、両試験ともに治療効果・有害事象ともに CRT群が勝る結果となった。

再発転移頭頸部がんに対する全身治療の第一選択肢は EXTREMEレジメン( CDDP+ 5―FU+セツキシマブ)とされている。しかし、2015年に抗 PD―1抗体であるニボルマブが頭頸部癌に対しても保険承認がなされた。現時点ではその有効性を示した Checkpoint141試験に準じてプラチナ耐性あるいはプラチナ不応の症例に対する二次治療として適用されているが、治療法の組み合わせや順序については現在も議論がなされている。

さらに2018年に Keynote 048試験の結果が報告された。再発転移頭頸部癌に対する一次治療として抗 PD―1抗体であるペンプロリズマブ群が EXTREME群に OSで優位であったことから、ある特定の条件下では免疫チェックポイント阻害薬が一次標準治療となり得ることが示された。ただし、今後この報告の詳細についてよく検証する必要があろう。図はセツキシマブの NK細胞を介する ADCC活性とそこから誘導された免疫抑制機構を模式化した図である。 PD―L1はセツキシマブ治療のみならず、多くの化学療法や放射線治療によっても誘導されることから化学療法、放射線治療、分子標的薬治療に免疫チェックポイント阻害薬治療をうまく組み合わせていくシークエンス治療の考えが発展していくことが予想される。

本講演では最近のトピックとなる報告を検証しながら、今後の分子標的薬治療について考察を行う。

四国がんセンター 頭頸科・甲状腺腫瘍科  門田伸也
略歴
1988年  金沢大学医学部卒。 同大学 麻酔科 入局 
1993年~ 岡山大学耳鼻咽喉科 大学院卒業後 四国がんセンター
2003年 国立がんセンター東病院  頭頸科 医員
2004年~ 四国がんセンター  頭頸科 医長
2017年~ 統括診療部・第二病棟部長 
岡山大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 臨床教授
日本頭頸部外科学会 理事 日本頭頸部癌学会・日本内分泌外科学会 評議員  日本頭頸部癌学会広報委員長 日本癌治療学会診療ガイドライン委員

2019/05/11 12:50〜13:40 第2会場