どんな手術にも、プランニングが必要である。特に耳鼻咽喉科が扱う領域には、頭蓋や眼窩、数々の重要血管や神経組織が存在し、一度解剖構造を見失うと大きな合併症につながる。ゆえに、十分に術前プランニングをして、あらかじめ危険構造部位を避けながら手際よく進められる手術手順を考えておくことが大切である。そして、術前プランニングをしていても、術野において自分がどの構造を操作しているか分からなくなると、手術中に悩むことを経験する。そんな時に大変有用なツールが、術中ナビゲーションシステムである。最近登場したナビゲーションシステムは、単に位置情報を知るだけでなく、術前に色や印を画像情報につけ加えることができ、それを 3D画像としても、バーチャル内視鏡画像としても表示ができる。そのため、術前にプランニングした目印となる重要な解剖学的構造と、術中の位置情報を直感的にリンクしてくれる。このようなツールが利用できる今、リンク元となる術前のプランニングがさらに重要になってくる。いかにプランニングするかで、今後はナビゲーションの有用性もユーザーによって大きく異なってくるものと考えられる。
そこで、当科で行っている慢性副鼻腔炎に対する鼻科手術の術前プランニングについて述べる。当科では、単純 CT骨条件、 1mmスライスで軸位断、冠状断、矢状断でプランニングしている。前頭洞排泄路と前部篩骨洞の立体的構造を building block conceptにしたがって、ブロック図をメモに描いて手術プランニングをしている。前頭陥凹の蜂巣はとても複雑に見えるが、各々名前や定義もあり、良く整理されているため立体的構造が理解しやすい。主に前頭洞排泄路と前篩骨動脈の走行に注目して、それらと前頭陥凹の蜂巣との関係が理解できるように図示している。
一方、第3基板より後方の後部篩骨洞については、前部篩骨洞と同様に複雑な構造であるが、各蜂巣に名前があるわけではなく、 Onodi cellや Haller’s cellなどが命名されているにすぎない。そのため、後部篩骨洞の立体的構造がやや理解しづらく、手術時に自分が操作しているところが分からなくなることがある。さらに、視神経管や内頸動脈隆起、頭蓋底など重要構造物が近接しているため、慎重な操作が必要である。そのため、術前プランニングの段階で、どれかの蜂巣を目印として決めておくことが大切である。その候補となるものとして、頭蓋底と眼窩の両方に接する蜂巣がある。冠状断 CTで、それにあたる蜂巣を確認しておき、その蜂巣と上鼻甲介との関係をみておくと、術中において同定しやすくなる。手術ではこの目印とした蜂巣を開放し、その蜂巣内で頭蓋底と眼窩の面を見つけ、その面を順に前方へ向けて出していく。頭蓋底や眼窩に付着する隔壁を除去し平坦化すれば、良い後部篩骨洞の手術となる。
新しい術中ナビゲーションシステムは、術前プランニングをより簡単に直感的に手術操作へつなげる助けとなることが期待されている。よい術前プランニングを立てるために、「手術中に悩むのでなく、術前に悩みましょう。」
田中秀峰
2000年 筑波大学医学専門学群卒業
2000年 筑波大学耳鼻咽喉科入局
2001年 国立霞ヶ浦病院耳鼻咽喉科医師
2005年 日本耳鼻咽喉科学会専門医
2009年 筑波学園病院耳鼻咽喉科医師
2010年 医学博士
2012年 筑波大学医学医療系講師 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
2019/05/11 12:50〜13:40 第1会場