アレルギー疾患ガイドラインにおいて、脳内ヒスタミンの生理作用を遮断しない中枢移行性のない非鎮静性抗ヒスタミン薬が推奨されている。非鎮静性抗ヒスタミン薬では、親水性の官能基であるカルボキシル基(ビラスチン、レボセチリジン、フェキソフェナジン、オロパタジン、ベポタスチンなど)あるいはアミノ基(エピナスチン、メキタジン、デスロラタジンなど)を導入して血液―脳関門を通過しにくくし、鎮静作用を低減している。カルボキシル基型は H1受容体に特異性が高く、アミノ基型は特異性が低くほかの受容体(ムスカリン受容体、 PAF受容体など)も遮断する。抗ヒスタミン薬は鎮静性( sedating)と非鎮静性( non―sedating)に分類するのが科学的に正しい。抗ヒスタミン薬の H1受容体に対する結合親和性は大きく異なる。しかし抗ヒスタミン薬の結合親和性( potency)は大きく違うが、最大反応( Emax)で表わされる臨床的有効性 efficacyは十分な用量では同じである。非鎮静性抗ヒスタミン薬は H1受容体拮抗作用以外に抗炎症作用や抗アレルギー作用も持っているが、抗ヒスタミン薬の治療上の特徴はその即効性にある。
薬理作用からみた理想的な抗ヒスタミン薬の使用法は以下のように提案できる。
1)即効性があり、副作用の少ない非鎮静性抗ヒスタミン薬がアレルギー疾患の第一選択。長期投与しても基本的に安全。
2)非鎮静抗ヒスタミン薬の臨床的 Efficacyは差がないが、効力 Potencyは大きく異なる。
3)効果が弱い症例には Potencyの強い薬に変更する。さらに効果が弱い場合には作用点の異なるほかの抗アレルギー薬の併用を考える。
4)体内で代謝される Pro―drugは単剤使用が原則である。
5)粘膜への局所投与(点眼・点鼻)も非鎮静性抗ヒスタミン薬を使用する。
6)鎮静性抗ヒスタミン薬は制吐薬 Antiemeticとして有用である。
7)夜に鎮静性抗ヒスタミン薬を使用するのは翌日に薬酔い( hangover)の危険がある。
8)「眠くなるほうが効果( Efficacy)は強い」は間違った錯覚である。
9)小児アレルギー疾患にも副作用低減の観点から非鎮静性抗ヒスタミン薬が第一選択で、最近6カ月以上で使用できる非鎮静性抗ヒスタミン薬が承認されている。
10)ビラスチンとフェキソフェナジンは薬理学的に似ている。ビラスチンは効力 Potencyをフェキソフェナジンよりさらに強めている。
11)非鎮静性抗ヒスタミン薬の中でフェキソフェナジンとビラスチンは H1受容体占拠率がほぼゼロであり、“脳内に移行しない抗ヒスタミン薬”( non―brain―penetrating antihistamines)と分類できる。
参考論文
1) Kawauchi H, Yanai K, Wang DY, Okubo K : Antihistamines for allergic rhinitis treatment from the viewpoint of nonsedative properties. Int J Mol Sci 2019 Jan 8 ; 20( 1) .2)谷内一彦 :小児における抗ヒスタミン薬の選択について考える .小児耳2018 ;39 :275 ―282 .
谷内一彦
1981年 東北大学医学部卒業、医師免許取得
1986年 東北大学大学院医学研究科修了、医学博士
1986-1987年 米国ジョンスホプキンス大学医学研究科ポスドク
1987年 日本学術振興会特別研究員
1988年 東北大学医学部助手(第一薬理学教室)
1998年 東北大学大学院医学系研究科教授
2004年 東北大学大学院医学系研究科機能薬理学分野教授に名称変更
所属学会:日本薬理学会(理事・副理事長)、日本臨床薬理学会(評議員)、日本神経化学会(評議員)、日本神経科学会、日本睡眠学会、日本精神神経薬理学会、日本神経内分泌学会、日本核医学会、日本分子イメージング学会、日本ヒスタミン学会(幹事)、米国神経科学会、ヨーロッパヒスタミン研究学会
2019/05/10 12:30〜13:20 第9会場