Narrow Band Imaging( NBI)を使用できる電子スコープにより、耳鼻咽喉科外来における頭頸部癌診療は格段に進歩を遂げています。それまでは診断が困難と思われてきた中・下咽頭の上皮内癌が診断されるようになってきました。さらに隆起した腫瘍であっても上皮内異常血管が表面に認められる場合には筋層まで浸潤していない癌であることが示唆され、このような病変には経口的な切除といった低侵襲治療が計画されるようになって来ました。もちろん、早期の診断は生命予後の改善に繋がり、さらには経口的な低侵襲治療は術後の患者さんの QOL向上にも寄与していると思われます。
このように頭頸部癌診断と治療に大きく貢献してきた耳鼻咽喉科用 NBI電子スコープですが、初代である ENF-V2から画像解像度を改善した ENF-VQ、さらには High Definition画質( HD画質)で観察可能な ENF-VHと画質的な改善がなされ、それに伴いより詳細な咽頭・喉頭の観察が可能となってきました。今回、新しく発売された ENF-VH2はこれまでの改良点と大きく視点を変え、われわれ耳鼻咽喉科医師が持つグリップの部分を「ピストル型」に設計し、さらに軽量化されたものです。このグリップの最大のメリットは、電子スコープを持つと自然にスコープの挿入部が対面している患者さんの鼻腔に向かうようになっている点です。さらに操作部が軽量化されていることで操作する医師の疲労の軽減化への考慮もされております。このように画像がこれまでの HD画質を保ち、人間工学的に改善された「ピストル型グリップ」形状を取り入れることで、さらに耳鼻咽喉科外来での頭頸部癌診断に貢献することが期待されます。
恵佑会札幌病院ではこれまでに多くの頭頸部表在癌を診断し、より低侵襲な治療(経口的な手術)を行うように心がけてきました。当院でも ENF-VH2(ピストルグリップ NBI)を使用し、この電子スコープの良さを経験してきました。今回、ピストルグリップ NBIの2大特徴である、 HD/NBI画像と「ピストル型グリップ」について当院での経験を示したいと思います。
最初に HD/NBI画像の有用性についてですが、頭頸部癌学会のホームページ内に頭頸部表在癌取り扱い指針が示されております。この中に記載されているように病変の病型分類を行い、記載するように示されています。これは病型分類が腫瘍の深達度とおおむね一致することが多く、例えば、表面型の0 -Ⅱ型は深部に浸潤することは少なく、経口手術で確実に切除できる可能性が高いことも分かっております。さらに、頸部リンパ節転移の発生頻度がこの病型分類で異なることも分かっております。治療前に正確な病型分類を行うには、より明瞭な画像が必要であることは明らかです。前述のように NBI電子スコープも画像解像度が改善され現在 HD/NBIになっています。この耳鼻咽喉科用 HD/ NBIで撮影された画像により病型分類された症例を供覧させていただき、今一度、 HD/NBIの有用性を示したいと思います。
次に「ピストル型グリップ」についてですが、従来型のスコープに慣れ親しんできた耳鼻咽喉科医師にとっては最初は「なんとなく使いづらい」と感じると思われます。これはすべての不慣れなものに対して共通する感覚と思われますが、使用していくうちにその良さを実感できると思います。特に、下咽頭から頸部食道にかけての病変を診察する際に行う「 modified Killian法」では、従来の形状では体位をとっている際に電子スコープが抜けそうになることがありますが、この「ピストル型」ではその心配が少なくなります。また、軽量化されており、腕への負担が減りました。日常耳鼻咽喉科外来で多くの患者さんを診察しなければいけない先生方にとっては明らかに朗報であると思われます。
以上恵佑会札幌病院での使用経験を示し、明日からの診療に少しでもお役に立つことを心から願っております。
渡邉昭仁
1985年(昭和60) 3月 旭川医大卒業・旭川医科大学耳鼻咽喉科入局
1989年(平成1) 4月 日鋼記念病院・耳鼻咽喉科 科長
1992年(平成4) 4月 国立がんセンター頭頸科 研修
1993年(平成5) 4月 市立稚内病院・耳鼻咽喉科 医長
1995年(平成7) 4月 恵佑会札幌病院・耳鼻咽喉科 部長
2000年(平成12) 5月 学位取得(医学博士)
2010年(平成22) 9月 恵佑会札幌病院 副院長
現在に至る
2019/05/10 12:30〜13:20 第5会場