第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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市中のクリニックでは嗅覚や味覚の異常を訴える症例は比較的多く、病院と異なりアクセスの良さから発症後すぐに受診する傾向があるが、感冒後の味覚障害では大概は自然回復する。一方で、数カ月から数年経過している場合は、原因がはっきりしないことも多く、治療に難渋する。

味覚全体の低下だけではなく、特定の味質が感じられなくなる解離性味覚障害、苦みや渋みを感じる異常味覚、または別な味を感じる異味症がある。全く味覚がないか、味が濃いものは分かるかなどの程度も尋ねる。味覚には問題がなく、嗅覚が低下している風味障害の場合もある。

嗅覚障害が先行する味覚障害では、前述の感冒などの上気道炎によるもの以外に、鼻茸を伴うアレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、好酸球性副鼻腔炎などによる嗅裂の閉鎖も影響していることがあるので、鼻腔の観察を要する。また嗅覚障害を起こし得る頭部外傷既往有無を確認する。

糖尿病や肝機能障害、腎障害、甲状腺疾患などの全身疾患の有無、亜鉛とキレート作用を持ち味覚障害の原因となり得る薬剤の摂取、最近の感冒の既往やダイエットや拒食などの食事摂取不足について聴取する。肝機能障害や甲状腺疾患など明らかとなり、内科の治療で味覚障害が改善する例やうつ症状での味覚障害も経験される。

口腔内の所見は、舌苔の有無、発赤や乾燥、舌乳頭萎縮をチェックする。検査は、診察時に簡単に調べる方法として、グリセリンやルゴール、食塩などを綿棒につけて舌先で味がしているか、どんな味かを聞いている。

口腔乾燥の有無についてはガムテストやサクソンテストを行う。味覚検査は濾紙ディスク法を用いている。大錘体神経領域は高齢者では反応が得られないため、鼓索神経領域、舌咽神経領域を左右それぞれ調べるが、それでも数10分を要する。簡易的に鼓索神経領域のみ行ったり、特定の味質に関する訴えがなければ甘味と塩味程度に省略している。

血液検査では一般血液検査、肝機能を含めた生化学検査、血糖値、亜鉛、鉄、フェリチン、銅を測定する。亜鉛は多くの酵素の活性化に必要な成分で細胞成分や核酸代謝などにも重要な役割を果たす。血清亜鉛値は、 60μg/dl未満は亜鉛欠乏症、 60〜 80μg/dlは潜在性亜鉛欠乏で亜鉛投与を行う。亜鉛酵素である ALP低値も亜鉛低下の指標になる。亜鉛の働きは多彩で身長の伸び(小児)、皮膚代謝、生殖機能、骨格の発育、味覚・嗅覚の維持、精神・行動への影響、免疫機能などに関与している。

血清鉄が正常でもフェリチン値が低下している潜在性の鉄欠乏症もみられる。

薬剤性障害では亜鉛とキレートを来す薬剤も要因になる。

治療は口腔乾燥があれば、小まめな補水を勧めて、保湿のジェルを紹介している。シェーグレン症候群では口腔乾燥治療薬も有用である。ビタミン剤、漢方薬の処方を行う例もある。

亜鉛欠乏症、潜在性亜鉛低下例には亜鉛投与を行う。投与1〜2カ月で血中濃度を測定して容量を調節する。

薬剤性の味覚障害も亜鉛とキレート作用を持ち亜鉛低値を引き起こす。長期間内服している例も多いため患者の理解が得られず、原疾患の治療の必要性から中止が難しいこともある。

高齢者だけではく、若年者でもダイエットや偏った食事、過度のスポーツによる亜鉛低下例があり、亜鉛投与とともに日常の食事の指導を行っている。

新谷朋子
1987年 札幌医大医学部卒業
1987年 札幌医科大学耳鼻咽喉科教室入局
2003年 日本耳鼻咽喉科学会専門医
2000年 医学博士
2001年 札幌医科大学耳鼻咽喉科講師
2010年 とも耳鼻科クリニック開業(院長)札幌医大耳鼻咽喉科非常勤講師
2016年 漢方専門医

2019/05/09 13:00〜13:50 第7会場