第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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コーンビーム CT( CBCT)は簡単にいうと低被曝線量で骨の描出に優れた高精細な座位型の CT装置である。2001年頃から導入され現在は耳鼻咽喉科クリニックに普及し始めており、鼻・耳領域には非常に利点の多い装置である。今回は当科での鼻科診療における CBCTの使用法を紹介させていただきたい。コーンビームの形状をとるX線とフラットパネルを応用した小照射野に限定した CT装置で、従来の CTがファンビーム(扇状)と呼ばれるのに対し CBCTと呼ばれている。当院で採用している CBCTは 3D AccuitomoF17®(モリタ製作所)で、以下は本機種について述べるものとする。従来の CTと比較した特徴としては、⑴高い空間分解能 ⑵少ない金属アーチファクト ⑶低被曝線量 ⑷設置面積の少なさ ⑸座位撮影 ⑹低価格があげられる。撮影範囲は最小径 40×H40mm〜最大径 170×H120mmで、空間分解能は最小一辺 0.08mmの歪みの少ない等方性ボクセルデータを得ることができる。骨の描出は従来のマルチスライス CTと比較し優れている。金属アーチファクトを受けにくく、歯根部周囲の病変が詳細に評価でき、歯性上顎洞炎も診断が容易になっている。低被曝も大きな魅力の一つで、従来の頭部 CTと比し被曝線量約7分の1程度とされており、頻回の検査例や小児には大きな利点である。座位で撮影するため閉塞感が軽減されており、閉所恐怖症の患者でも本装置では撮影できることが多い。しかし、安静座位を数十秒程度保持できない患者の撮影は適さない。既存の撮影室などがあれば設置が可能なことが多く、X線撮影装置の代わりに導入する施設もある。

耳鼻咽喉科の検査結果(内視鏡の静止画、動画、外鼻写真、嗅覚検査、鼻腔通気度計などのレポート)はすべて統合画像処理ソフト i-VIEW®(モリタ製作所)で管理している。 CBCT画像もモダリティの一つとして同じ i-VIEW®内で編集・閲覧することができ、 CT画像をコマ送りでなく連続して、 MPR( multi planer reconstruction)像、オブリーク(斜断)像で詳細に観察することで多くの情報が得られる。最も頻用するのは副鼻腔炎の診断であり、そのほかは鼻中隔弯曲症やアデノイド増殖症などに用いている。しかしこれらは従来の CTでも問題なく診断できる病態であり、かえって軟部組織のコントラスト分解能が低いため真菌症や粘調鼻汁でみられる高吸収域は CBCTでは観察しにくいので注意が必要である。最も有効な使用法は鼻科手術時の CT読影である。複雑な前頭洞の排泄路の確認、腫瘍や外傷などによる頭蓋底や眼窩骨の状態変化の評価には、 MPR像やオブリーク像での観察を多用している。

そのほか当科では判断に悩む頭痛顔面痛や鼻汁・後鼻漏感を訴える例にも CBCTを活用している。 CT・ MRIで副鼻腔陰影が乏しく、非特異的な部位の頭痛顔面痛を訴える例でも、発症と鼻内病変が時期的に一致する、鼻症状と頭痛が連動し寛解増悪を繰り返す、鼻内病変と痛みが同一側、鼻内の局所麻酔で痛みが消失するなどの項目のうち2つを満たせば、国際頭痛分類にある「鼻粘膜、鼻甲介、鼻中隔の障害による頭痛」に該当する。原因例として甲介蜂巣や鼻中隔 spurが挙げられているが、従来から知られている鼻粘膜接触点頭痛やサイナスプレッシャー(洞内圧変化、低酸素が原因)、自然口粘膜炎症からの関連痛がこの分類には含まれていると考えられる。われわれの研究でも、嗅裂部の陰影、鼻粘膜肥厚、過剰発達洞と自然口粘膜肥厚などのわずかな所見が痛みと関連することが分かっており、鼻副鼻腔疾患関連痛とよんでいる。このような微細な画像所見は CBCTで観察すると得やすい。後鼻漏の訴えは診断に悩む症状の一つであるが、オブリーク像で観察すると副鼻腔内の液面、泡形成や、後鼻に糸をひくような鼻汁を証明できる場合が多い。 CBCTは軟部組織のコントラスト分解能が低い欠点はあるが、高精細な利点を生かし鼻漏の診断に生かしている。

手術ではナビゲーションの画像データとして DICOM出力し利用している。また、 i-Dixel WEB®(モリタ製作所)を利用してタブレット上で CBCT画像を表示させている。清潔にしたタッチペンで術者自らビューワの操作ができ、 CT以外の i-VIEW®に取り込まれた他データにもアクセスできるため有用である。

参考資料
小川洋 ,他 :コーンビーム CT活用法 .耳鼻咽喉科・頭頸部外科2013 .
御厨剛史 :耳鼻咽喉科専用コーンビーム CT導入の経緯と有用性 .新医療 ;2016 .
国際頭痛学会・頭痛分類委員会 :国際頭痛分類第3版 .2018 .切替一郎 :新耳鼻咽喉科学1998 .

御厨剛史
平成13年3月 山口大学医学部 卒業
平成13年4月 山口大学医学部 耳鼻咽喉科 入局
平成14年~15年 山口県立医療センター(旧山口県立中央病院)
平成15年 山口大学耳鼻咽喉科医員と大学院入学
平成19年 山口大学大学院医学研究科博士課程修了、学位取得
      日本耳鼻咽喉科専門医
平成20年 山口大学医学部 耳鼻咽喉科 助教
平成26年7月 古賀病院21耳鼻咽喉科 部長
平成27年 日本耳鼻咽喉科学会指導医

2019/05/09 13:00〜13:50 第6会場