好酸球性副鼻腔炎の病態の原因について、その詳細は分かっていない。環境要因として、黄色ブドウ球菌エンテロトキシン、真菌の非 IgE依存性のアレルギー反応、バイオフィルム、マイクロバイオーム、バリア機能の欠損などいくつかの理論が展開されている。しかし、その分子病態については、研究の発展に伴い明らかになってきている。耳鼻咽喉科医が治療を行う上気道アレルギー疾患では花粉症、通年性アレルギー性鼻炎、好酸球性副鼻腔炎がある。これらの疾患の中でとりわけ好酸球性副鼻腔炎は、自然型アレルギーの関与が強いことが知られている。この自然型アレルギーというのは、従来知られていた抗原抗体反応である獲得型アレルギーと対をなしており、抗原の感作なしに Th2サイトカイン産生を誘導する反応である。さて、その自然型アレルギーの起点となっているのが、鼻粘膜上皮細胞である。つまり、好酸球性副鼻腔炎の病態を考えるうえで重要なのが、鼻粘膜上皮ということになる。気道の上皮細胞は外界と接しており、異物の侵入を防ぐバリア機能のみならず、サイトカイン・ケモカインを産生するため気道炎症の出発点と考えられている。そして、気道上皮細胞から好酸球性炎症を引き起こすサイトカインである TSLP、 IL-25、 IL-33が産生され、これらは上皮由来サイトカインと呼称されている。鼻粘膜上皮細胞が、ブドウ球菌、真菌、ウイルスなどの病原体、刺激物質などに反応し、上皮由来サイトカインの産生は導かれる。われわれは、特に、ダニ抗原、ブドウ球菌、真菌などに含まれるプロテアーゼ(たんぱく分解酵素)がプロテアーゼ受容体( PAR-2)や ATP受容体( P2Y2R)を介して、産生・放出されるメカニズムを解明した。さらに、プロテアーゼは上皮由来サイトカイン産生にかかわること以外の作用ももち、物理的または生化学的バリア機能を担う分子を切断し上皮細胞のバリア機能を破壊すると考えられている。バリア機能の低下によって、アレルゲン粒子に由来する種々の物質が、上皮細胞下にアクセスすることが可能となり、種々の免疫応答を誘導する。実際に、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸上皮では TSLP、 IL-25、 IL-33の発現が亢進し、こうした上皮由来サイトカインの発現と組織中の好酸球数、および副鼻腔 CTスコアとの間には正の相関が認められる。また、好酸球性副鼻腔炎鼻茸由来の培養上皮細胞は、コントロールの培養鼻粘膜上皮細胞や、慢性副鼻腔炎鼻茸由来の培養上皮細胞に比べて、より多くの上皮由来サイトカインを産生し、鼻粘膜上皮細胞から産生された上皮由来サイトカインが好酸球性副鼻腔炎の病態に深くかかわっている。さらに、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸上皮では内因性フロテアーゼインヒビターの発現が低下し、外因性のプロテアーゼに対する制御反応が低下していることも明らかにした。
上皮細胞から産生された上皮由来サイトカインの TSLP、 IL-25、 IL-33は、2型自然リンパ球( ILC2)や Th2細胞を介して大量の Th2サイトカイン( IL-4、 IL-5、 IL-13)産生を誘導し、さらにB細胞からのポリクローナルな IgE産生を誘導して、好酸球浸潤が特徴的な病態が形成されると考えられる。実際に、われわれは好酸球性副鼻腔炎の鼻茸中にはコントロールの鼻粘膜や慢性副鼻腔炎鼻茸に比べて、より多くの ILC2が認められ、鼻茸中の ILC2数と浸潤した好酸球数の間には正の相関があることも確認した。
難治性疾患である好酸球性副鼻腔炎はステロイド以外に有効な薬物療法がなく、新たな治療手段の開発が求められている。これら一連の病態メカニズムの流れをブロックすることが、治療に結び付くと想定され、近年、 Th2サイトカインや IgEに対する新たな分子標的薬が開発され、その臨床効果が検討されている。さらに上皮由来サイトカインに対する分子標的薬も開発途上にある。分子病態が明らかになるにつれ、いくつかのクラスター解析によるエンドタイプ分類も行われている。われわれは、プロテアーゼインヒビターや NADPHオキシダーゼインヒビターが、アレルゲン刺激による培養鼻粘膜上皮細胞からの上皮由来サイトカイン産生を抑制すること、慢性好酸球性炎症のマウスモデルにおいて、プロテアーゼインヒビターや NADPHオキシダーゼインヒビターの局所点鼻投与が鼻粘膜におけるサイトカイン産生、好酸球浸潤、鼻粘膜のポリープ様変化を抑制することを確認した。新たな治療の可能性があり紹介したい。
神前英明
Professional experience
2011-present Assistant Professor, Department of Otolaryngology, Shiga University of
Medical Science, Otsu, Japan
2007-2009 Research fellow, Mayo clinic, Allergic disease research laboratory
2005-2007 Assistant Professor, Department of Otolaryngology, Shiga University of
Medical Science, Otsu, Japan
2001-2004 Graduate student, Department of Otolaryngology, Shiga University of
Medical Science, Otsu, Japan
1998-2000 Resident, Department of Otolaryngology, Shiga University of
Medical Science, Otsu, Japan
2019/05/09 13:00〜13:50 第5会場