第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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【はじめに】
硬性内視鏡に付随するビデオシステムの高精細( high definition : HD)化に伴い、すべての行程を内視鏡下に行う経外耳道的内視鏡下耳科手術( transcanal endoscopic ear surgery : TEES)が広く行われるようになっている。 TEESでは広角な視野により一視野で鼓室の全体像を把握することが可能であり、さらに内視鏡の接近による拡大視や斜視鏡の使用により死角の少ない手術操作が可能となる。このような利点をもつ TEESは耳後切開不要の低侵襲手術であるが、経外耳道的な keyhole surgeryであり、原則 one-handed surgeryという課題もある。本セミナーではこのような課題に対応しながら TEESの利点を十分に発揮するためのセットアップや手術手技などについて手術ビデオを供覧しながら解説する。

【 TEESのセットアップ】
当科では直径 2.7mm、有効長 18cm、0度、30度の硬性鏡に Full HDの 3CCDカメラとモニターを組み合わせて TEESを施行している。上鼓室や乳突洞病変への操作が必要な場合には、洗浄と吸引を兼ね備えた超音波骨削開器やカーブバーを用いた transcanal attico-antrostomyを行い、最小限の骨削開で乳突洞までアプローチを行う Powered TEESを行っている。耳鼻咽喉科で使用される内視鏡には太さや長さのバリエーションがあるが、直径 2.7mmの内視鏡を用いることで外耳道径の小さい小児症例でも手術が可能であり、有効長 18cmの内視鏡で powered deviceを操作するスペースも確保できる。また、 LED光源を用いることで観察部位や鏡筒の温度上昇による組織障害を予防できる。

TEESでは安定した内視鏡の保持を行うための左腕用肘置きが必須である。また不測の事態に備えて顕微鏡は常時スタンバイとする。はじめにきれいな視野を確保するために、外耳道の清掃と耳毛の処理を行う。耳垢および耳毛を丹念に清掃、除去することで、内視鏡の出し入れの際に先端が汚れることを予防する。さらには耳珠を前方に牽引固定するとともに耳介裏面にたたみガーゼをおいて耳介を外側後方にテープで牽引固定し、軟骨部外耳道を直線化することで内視鏡の出し入れが容易となり、結果的に手術時間の短縮化につながる。

【手術手技の工夫】
内視鏡のブレを防ぐため、術者は脇をしめ、肘を手台にのせて支点とし、さらに内視鏡先端を軟骨部外耳道に固定して視野を確保する。前鼓室や後鼓室、上鼓室や乳突洞など、観察する方向や操作する方向に従って内視鏡や手術機器の挿入角度の調整が必要となるが、術者がなるべく自然な姿勢で手術操作ができるようにベッドのローテーションもその都度組み合わせる。曇り止め対策として、曇り止め成分付スポンジであるドクターフォグ ®に曇り止め液剤であるウルトラストップ®を滴下したものを用いて、内視鏡を耳内から出す度に助手が先端をふいている。この操作は、硬性鏡先端を冷却する効果も期待できる。

tympanomeatal flap挙上の際は出血予防と液性剥離の効果を期待して、外耳道皮下に30万倍エピネフリン入り0.5%リドカインを、注射針先端を外耳道骨面にあてながら緩徐に剥離するように注射する。外耳道皮膚の弧状切開は、骨部外耳道の中間の深さを基準とするが、 attico-antrostomyを予定しているときは外側の骨部外耳道と軟骨部外耳道の境界近くに置いている。止血操作は高周波凝固装置に接続した先細バイポーラーとエピネフリン含浸ベンシーツ ®および綿球を用いて行う。また、原則として片手操作となる TEESでは、ベンシーツや綿球を tympanomeatal flapを飜転固定するための左手代わりに用いたり、出血部位の圧迫に用いたりすることで片手操作の弱点を補うことができる。

セミナーでは耳鼻咽喉科医師が TEESを導入するにあたり TEESの良い適応となる慢性穿孔性中耳炎や中耳奇形症例を中心に、手術ビデオを供覧しながら TEESの基本手技について解説する。

伊藤吏
1996年 山形大学医学部卒業、山形大学耳鼻咽喉科入局
2001年 日本耳鼻咽喉科学会専門医
2002年 山形大学大学院医学研究科修了
2002年 山形大学耳鼻咽喉科助手
2007年 スイス チューリヒ大学留学
2015年 山形大学耳鼻咽喉・頭頸部外科講師
2017年 山形大学耳鼻咽喉・頭頸部外科准教授

2019/05/11 8:00〜9:00 第8会場