喉頭枠組み手術は、声帯に直接、手術侵襲を与えるのではなく、喉頭枠組軟骨の形態や位置を変えることにより、間接的に声帯の緊張や、長さ、位置を変える音声外科であり、局所麻酔下で行うときは手術中音声をモニターしながら音声の調整が可能という利点がある。
喉頭枠組み手術の適応疾患で多いものは片側声帯麻痺である。術式として麻痺側声帯を正中移動させる甲状軟骨形成術1型(以下、1型)と声帯を発声時の位置へ内転させる方法である披裂軟骨内転術(以下、内転術)、あるいは両者の併用が行われることが多い。
1型は、患側甲状軟骨の声帯レベルに窓を開け声帯を内方に押し込み固定する術式であり、局所麻酔での手術が可能なため音声改善を術中に確認できる。喉頭枠組み手術の中では比較的容易と考えられている手術術式であるが、手術中に声帯が見えないので十分な局所解剖の知識が必要である。
内転術は、発声時の声門後部間隙や声帯レベル差が大きい症例が適応となり、麻痺側声帯を発声時の生理的な位置に内転させるすぐれた術式であるが、披裂軟骨筋突起に直接糸をかける必要があるため頸部に術後瘢痕がある症例や甲状軟骨が大きい成人男性では難易度が高い。一色の原法においては局所麻酔下で行われるため患者の音声を確認しつつ施行されるが、全身麻酔下に行うことも可能である。
高度嗄声を伴う片側声帯麻痺に対して、一般的に内転術単独や内転術に加えてⅠ型や脂肪注入術などの注入術を併用することが多い。しかし、内転術や内転術にⅠ型や注入術を加えた手術では術後音声の改善を認めるが、正常声まで回復しないことがある。
正常声まで回復させるには、麻痺側声帯を正中位に移動させるのみではなく、神経再建による甲状披裂筋の筋緊張獲得と筋萎縮の回復が必要である。甲状披裂筋の神経再支配を目指した手術として神経筋弁移植術があり、披裂軟骨内転術との併用することで術後正常声の再獲得が可能である。神経筋弁移植術を用いて神経再支配の獲得を得るためには、筋弁作成時に神経刺激装置の併用と移植に顕微鏡を利用するなどポイントがある。
内転型痙攣性発声障害に対する新たな外科治療として、甲状軟骨を正中切開し左右に広げることで発声時の声門過閉鎖を防止する術式であるチタンブリッジⓇを用いた甲状軟骨形成術2型(以下、2型)が2018年度新規医療技術として保険収載された。実施には局所麻酔下に気道に侵入することなく正確に甲状軟骨を正中切開し、術中の患者の声の変化をモニタリングしながら甲状軟骨切開部を左右に広げ、最適なサイズのチタンブリッジ Ⓡを甲状軟骨切開部に2個挿入する術式であり、手術を安全で効果的に実施するため注意すべきポイントである。
本セミナーでは、1型については声帯のレベルの決め方、窓のデザイン、窓の切開さらに声帯正中移動と音声の調節について、内転術については筋突起の探し方と筋突起への糸のかけ方について、神経筋弁移植術については神経刺激装置を用いた最適な筋弁の作成方法と手術顕微鏡を用いた移植時のポイントについて、さらに2型については甲状軟骨正中切開、切開部内軟骨膜の剥離と開大調節のポイントを中心に解説する。
讃岐徹治
1995年 愛媛大学医学部卒業
1995年 愛媛大学医学部耳鼻咽喉科入局
2001年 日本耳鼻咽喉科学会専門医
2001年 医学博士
2001年 日本気管食道科学会認定専門医
2006年 熊本大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助手
2010年 熊本大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 講師
2017年 名古屋市立大学大学院医学研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科 講師
2019/05/11 8:00〜9:00 第6会場