第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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タイトル

耳下腺の手術の多くが主に腫瘍の手術で、良性腫瘍に対する手術、悪性腫瘍に対する手術に分けて考えるのが良い。耳下腺手術の術後に出現する合併症としては ①顔面神経麻痺 ② Frey症候群 ③唾液瘻、が3大合併症であるが、良性腫瘍、悪性腫瘍ではその現れ方や経過が異なる。以下、それぞれに対する対応(予防策)について考えていく。

①顔面神経麻痺
良性腫瘍の手術では顔面神経を確実に温存するだけではなく、もし露出する場合には愛護的に扱うことが重要である。術中に顔面神経を見出す方法としては茎乳突孔から出てくる本幹を中枢側で見つけ、抹消に枝をたどっていく方法と、抹消で下顎縁枝などを明らかにして、これを中枢側に追いかけ本幹までたどるやり方がある。顔面神経を追求していく際にはできる限り直接触れない、鉤などで引く際には過度に伸ばさないことが重要である。神経は引く力に弱く、伸ばされる方向に力が働くと容易に麻痺を起こす。また、電気メスを使用する際には神経周囲で使わないように注意する。顔面神経抹消枝の分岐のパターンは個人差があるため思い込みは禁物で注意が必要である。また、術前の画像診断では浅葉腫瘍だと思っていたら実際は深葉腫瘍であったり、逆の場合もあるため顔面神経の走行には常に神経を配る。術中は肉眼でも顔面神経を確認できるが、経験が浅い場合など神経刺激装置を使用する方が安全である。当科ではメドトロニックの NIMシステムを用いている。導入時に用いた筋弛緩薬の効果が十分に消失していることを確認して顔面神経を確認していく。顔面神経本幹の確認方法についての詳細はほかの講演に譲り、ここでは詳細について述べない。
悪性腫瘍などで顔面神経を合併切除する際には再建術の適応となる。しかし、顔面神経の中枢側断端が腫瘍浸潤で十分に残すことができない場合もあり、再建術にも工夫が必要となる。腺様嚢胞癌など神経浸潤しやすい特殊な組織型の場合や腺癌 NOS、唾液腺導管癌など悪性度の高い癌では側頭骨内まで開放して、できるだけ高位で顔面神経を切断し、迅速診断で癌の浸潤がないことを確認してから吻合する必要がある。神経の再建方法は種々あるが、再建材料としては当院では主に下腿から採取した腓腹神経や大腿外側筋皮弁の挙上時に一緒に採取した神経(大腿皮神経)を用いることが多い。フリーで再建する場合には走行が長くなると神経の走行直下が血流のない組織(たとえば下顎骨表面など)になる場合があり、神経の再生には良くない条件になるので、可能な限り血流の多い組織が神経周囲にあるべきである。そのため場合によっては筋弁などを用いることもある。

② Frey症候群
発症のメカニズムから考えれば、防止するためには皮下の剥離面と耳下腺組織の切離面が接しないようにすれば良いことになる。良性腫瘍などで腫瘍が比較的小さく耳下腺の切離面も広くない場合は、 Vicryl糸などの吸収糸を用いて切離面を内側に埋没するように縫合する。この際に顔面神経には十分に注意し、縫い込まないようにする。大きな腫瘍の場合には切離面が広く、前述のように残った耳下腺組織で被覆することが困難である。この場合、当科では胸鎖乳突筋の一部を上方茎として筋弁を作成し、上方に翻転して耳下腺切離面を被覆している。胸鎖乳突筋を切離する際には副神経の損傷に気をつける。悪性腫瘍で耳下腺の大部分を切除したり、周囲組織への浸潤がある場合には再建術が必要になる場合が多く、前外側大腿筋皮弁などで充填するが、この場合には Frey症候群はほとんど発症しない。

③唾液瘻
唾液瘻は耳下腺組織を切離した際に腺組織や導管が開存したままになることで出現すると考えられる。まず、耳下腺組織を切離する際に丁寧に凝固切離し、腺組織や導管が可能なかぎり表面に出ないようにすることが重要である。さらに切離面が創部に接しないように前項の Frey症候群予防の方法と同じで良性腫瘍などで腫瘍が比較的小さく耳下腺の切離面も広くない場合は、 Vicryl糸などの吸収糸を用いて切離面を内側に埋没するように縫合する。同様に大きな腫瘍の場合には切離面が広く、胸鎖乳突筋の一部を上方茎として筋弁を作成し、上方に翻転して耳下腺切離面を被覆する。閉創の際には閉鎖式陰圧ドレーンを挿入留置し、術直後は創部を軽く圧迫して可能なかぎり死腔を作らないようにする。前項と同じ理由で悪性腫瘍で耳下腺の大部分を切除すると腺組織自体が残っておらず唾液瘻を見ることはほとんどない。また、再建術が必要になる場合、前外側大腿筋皮弁などで充填すれば唾液瘻はほとんど発症しない。
以上、症例を提示しながら解説を進める。

略歴 志賀清人

昭和 57年 3月 31日 東北大学医学部 卒業
59年 6月 1日 東北大学医学部附属病院 第二外科 医員
61年 5月 15日 東北大学医学部 医化学第一講座 助手
平成 4年 10月 1日 東北大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科 医員
7年 4月 1日 宮城県立がんセンター 耳鼻咽喉科 医長
13年 7月 1日 東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 助手
20年 7月 1日 東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 副科長
23年 7月 1日 岩手医科大学医学部 耳鼻咽喉科学講座 教授
28年 4月 1日 岩手医科大学医学部 頭頸部外科学科 教授
30年 4月 1日 岩手医科大学附属病院 頭頸部腫瘍センター長

2019/05/11 8:00〜9:00 第5会場