内視鏡下鼻副鼻腔手術( ESS)は副鼻腔を『単洞化』することが重要であることは、コンセンサスが得られている思う。篩骨洞、前頭洞、上顎洞、蝶形骨洞を開放する順番や手術の方法は個々の方法があるであろうが、完璧な手術を安全に施行することが重要であることには変わりはない。
昨今、2つの大きなコンセプトが ESSに変化をもたらし、より手術方法が体系付けられたと考えている。一つは Wormaldらが提唱した Building Block Conceptであり1)、もう一つは慈恵医大で提唱した Area managementである。 Building Block Conceptは前篩骨洞、前頭窩、前頭洞の解剖コンセプトであるが最も髄液漏を起こしやすい前頭洞開放が理論的にできるようになった。また、常に危険な部位と安全な部位を意識して手術を行うという Area managementは当たり前の概念であるが、手術中に意識することで副損傷を予防することができる重要なコンセプトである。特に眼窩壁、頭蓋底、前・後篩骨動脈、蝶口蓋動脈、視神経、内頸動脈などは常に意識して手術操作を行う必要がある。
手術の手順は術者によってさまざまであるが、私の方法、手術ステップを述べたいと思う。必ず中鼻甲介、鉤状突起、篩骨胞、第三基板を確認することから始める。ポリープや浮腫が強い場合は、マイクロデブリッダーなどを用いてこれらの解剖を確認することが重要である。特に中鼻甲介の同定が難しい場合は、中鼻甲介基板である第三基板を確認することと、鼻堤を探すことである。鉤状突起を前方に少し持ち上げたのち鉤状突起を切除する。ここで外側の限界である眼窩内側のラインを同定する。そのまま上方に向かい鼻堤を少し外側方向にトリミングすると Agger Nasi Cell( ANC)、そして前頭窩が0度の内視鏡で観察できるようになる。続いて篩骨胞を後方から切除し、外側の限界壁である眼窩壁まで、そして第三基板の水平部から垂直部への移行部位を明視下に置く。その第三基板を上方に追うと頭蓋底が明らかになる。その時に術前にプランニングした前篩骨動脈を同定、 Supra Bulla Cell、 Supra Bulla Frontal Cell等を開放すれば前頭洞をドレナージルートで開放することは容易である。後部篩骨洞は第三基板内側下方を穿破し開放を進めるが、前篩骨洞開放で同定した眼窩壁、上鼻道、上鼻甲介、 Onodi cellがある場合は視神経管隆起を Land markにして後部篩骨洞を開放する。視神経管が確認できればそこは Onodi cellであり、すなわち最後部の篩骨蜂巣となる。その先は高い位置でさらなる穿破を行うと頭蓋底損傷になる。蝶形骨洞はわれわれが提唱した蝶形骨洞前壁・ Onodi cellの分類を基に蝶形骨洞の前壁を同定している2)。基本的には蝶形骨洞自然口を同定し、外側に拡げる。しかし、自然口から開放できない症例も存在するため篩骨洞側からも開放できる技術は必要である。最後に上顎洞を開放するが、眼窩損傷が多いのは上顎洞膜様部を開放するときである。上顎洞膜様部の開放には明らかな Land markが少ない。上顎洞自然口が確認できれば問題はないが、確認できない場合は垂直である眼窩内側のラインから下鼻甲介から斜めに移行する位置で、鉤状突起付着部位、第三基板より前方、中鼻甲介下端付近の高さで上顎洞膜様部切開刀を用いて穿破する。穿破後、必ず空間を確認し開放拡大処理を行うことが重要である。
手術のステップはどのような方法でも構わないが、理論的に、そして常に安全を意識して手術を行うことが重要である。本セミナーでは症例の CT解剖と合わせ私の手術動画を提示しながら手術ステップを示したいと思う。また、手術の手順だけではなく、鉗子の操作、術中の出血の管理、眼窩損傷の予防にも触れ、時間が許せば術後の管理も触れたいと思う。
文献
1) Wolmald PJ : The International Frontal Sinus Anatomy Classification( IFAC) and Classification of the Extent of Endoscopic Frontal Sinus Surgery( EFSS) . Int Forum Allergy Rhinol 2016 ; 6 : 677―696.
2) Wada K : Identification of Onodi cell and new classification of sphenoid sinus for endoscopic sinus surgery. Int Forum Allergy Rhinol 2015 ; 5 : 1068―1076.
和田弘太
1996年 東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業
1998年 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室入局
2005年 Mayo Clinic, Rochester, Minnesotaへ留学
2010年 博士(医学)
2011年 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学講座 講師
2012年 東邦大学医療センター大森病院耳鼻咽喉科(大森病院)講師
2013年 東邦大学医学部医学科耳鼻咽喉科(大森病院)准教授
2016年 東邦大学医学部医学科耳鼻咽喉科(大森病院)教授
2019/05/10 8:00〜9:00 第7会場