第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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咳嗽は医療機関を訪れる主訴の一位という報告があるほど頻度の高い症状である。そのため耳鼻咽喉科医にとっても親しみの深い訴えである。

普段は上気道感染(感冒)の一症状として抗炎症薬、鎮咳薬、抗菌薬などで消退していくが多いが、8週間以上の咳嗽(慢性咳嗽)の原因は一般感染症ではなく種々の原因があり、中には注意を要する疾患も存在する。

耳鼻咽喉科領域の慢性咳嗽の重要な原因疾患は、慢性副鼻腔炎による後鼻漏、喉頭アレルギー、胃食道逆流、X線透過性気道異物があげられるが、そのほか、感冒後遷延性咳嗽、心因性にも遭遇する。診療上、見逃してはならない重要な原因疾患は、肺癌、肺結核、肺線維症など重篤な肺疾患である。また、われわれの領域でも、喉頭癌、喉頭結核などは同様である。これらの除外は極めて重要なポイントである。また、最近、マイコプラズマ肺炎あるいは成人であっても百日咳による遷延性咳嗽にも注意を要する。家族内発生、集団発生があるときは疑うとよい。喘息のため内科でステロイド吸入を行っている症例では、喉頭真菌症にも注意が必要である。

治療上の注意点として、慢性副鼻腔炎の後鼻漏による咳嗽は湿性であり、ほかの多くの疾患が乾性咳嗽であることから判断がつきやすい。副鼻腔炎の治療で後鼻漏が改善し、湿性咳嗽が治まっても乾性咳嗽が残る場合は、副鼻腔炎に合併の多い喘息の存在を考慮するとよい。この点、副鼻腔炎で咳をしている症例は喘息合併を早くから想定して、喘息の治療としてテオフィリンが使用されていないか確認しなければならない。副鼻腔炎の治療としてよく使用するマクロライド抗菌薬は、テオフィリンの血中濃度を変えるので、併用とならないよう使用薬剤の注意をするとよい。

アトピー素因の関与が疑われる乾性咳嗽は喉頭アレルギーが想定されるが、類似疾患の咳喘息とは治療が異なるので診断基準を確認するとよい。喉頭アレルギーは抗ヒスタミン薬、咳喘息は気管支拡張薬が有効であることがそれぞれの診断基準に示されている。ただし、いずれの疾患も胃食道逆流が効率に合併しているので、 PPIの併用でより有効な治療効果が得られることがあるので留意されたい。
たとえ成人でもX線透過性異物はまれにあり、われわれが見逃してはならない原因疾患であるため、疑われた場合 CTが有用であるので試してみるとよい。

成人では少ないが心因性咳嗽も時に遭遇するので、重度の場合、心療内科や精神科の力を借りなければならない状況に遭遇することもある。

これらの点に注意してピットフールに陥らないよう成人の咳嗽患者に対応してもらえればと思う。

内藤健晴
1978年:名古屋保健衛生大学(現 藤田医科大学) 医学部卒業
1985年:藤田保健衛生大学病院 耳鼻咽喉科助手
1986年:トロント大学 耳鼻咽喉科 Clinical Fellow
1999年:藤田保健衛生大学 医学部 耳鼻咽喉科 主任教授
2009年:藤田保健衛生大学病院 副院長
2013年:学校法人藤田学園 理事
2016年:藤田保健衛生大学 副学長(2018年10月より藤田医科大学に改名)

2019/05/11 13:50〜14:50 第1会場