第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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頸部は、上方は下顎骨の下縁から乳様突起を結ぶ線、下方は鎖骨上縁で区切られた領域であり、さらに、前頸部、側頸部、後頸部、顎下部に大別される。頸部腫瘤は1)炎症性、2)先天性、3)腫瘍性に大別できる。頸部の良性腫瘤は部位に特有のものが多く、診断にあたっては頸部の解剖、発生の理解が必要である。発症年齢・病歴、部位、視診によりある程度診断がつくことが多い。幼小児では先天性(55%)、炎症性(27%)、悪性疾患(11%)、良性腫瘍(3%)、その他(5%)とされる( Torsiglieri―AJ et al Int J Pediatri Otorhinolaryngol 1988 ; 16 : 199―210)。先天性頸部腫瘤の約20%は鰓原性嚢胞で、第2鰓裂嚢胞が90%以上を占める。成人では、頸部腫瘤の80%は腫瘍性であり、腫瘍の80%は悪性とされる。悪性の多くは頭頸部原発臓器からの転移である。頸部腫瘤診察で最も重要なことは、悪性疾患を見逃さないことである。本セミナーでは、診断のポイントを陥りやすいピットフォールを示しながら概説する。

1)発症年齢・病歴、部位について
1―1いつ気づいたのか、大きさに変化があるか乳幼児期からであれば、先天性疾患のことが多い。時間経過で大きさに増減がある場合、内部への出血や感染の合併が疑われる。
1―2感染の徴候・既往、結核の病歴はないか圧痛、発熱、皮膚の発赤、膿汁分泌があれば、感染性疾患、先天性疾患の感染を疑う。結核性リンパ節炎でも類似の所見を示すが疼痛は乏しい傾向にある。
1―3病変の左右、両側性か先天性側頸部嚢胞では一側性が多く、下咽頭梨状窩瘻では90%以上が左側に生じる。両側性の場合、感染・炎症性疾患に伴うリンパ節腫大、リンパ節転移などが疑われる。
1―4家族歴側頸嚢胞の家族歴に加え、難聴、外耳奇形、腎奇形があれば遺伝性疾患( BO症候群、 BOR症候群)が疑われる。 BO/BOR症候群では側頸嚢胞・瘻孔は両側性のことが多い。
1―5頭頸部悪性腫瘍の既往、側頸部腫瘤以外の症状咽頭違和感、嗄声がある成人では、悪性腫瘍の除外をまず行う。頭頸部悪性腫瘍の既往がある場合、後発転移を疑う。
1―6動物との接触歴人獣共通感染症によるリンパ節炎では、ネコ・イヌなどとの接触がある。

2)視触診による身体所見について2―1硬さ、圧痛、表皮発赤これらの症状があれば、感染性疾患もしくは先天性嚢胞性腫瘤の感染を疑う。2―2腫瘤の部位、瘻孔有無下顎角部の柔らかい可動性腫瘤では、側頸嚢胞、脈管奇形/脈管形成異常・血管腫を疑う。
2―3側頸部以外の腫脹部位甲状腺左側の腫脹・疼痛や発熱を初発症状とし急性化膿性甲状腺炎としての経過を示し、膿瘍を形成するときは下咽頭梨状窩瘻を疑う。自壊して皮膚瘻を形成することもある。側頸部嚢胞性病変に加え、甲状腺に硬い腫瘤を触れる場合甲状腺癌のリンパ節転移を疑う。

3)検査について3―1咽喉頭経鼻内視鏡検査で原疾患の有無を確認する。3―2血液検査では、 CRP高値、末梢血白血球数増多(感染性疾患)、結核性リンパ節炎を疑うとき INF.γを測定す
る。甲状腺関連疾患ではサイログロブリンが高値を示す。
3―3画像診断では、超音波検査で腫瘤の内容(充実性、嚢胞性、混合性)および甲状腺を確認する。腫瘤が疑われる場合は、さらに頸部 CTを施行し、周辺臓器(舌骨や甲状軟骨、甲状腺、顎下腺、胸鎖乳突筋、内外頸動脈など)との位置関係を確認する。悪性腫瘍の転移の鑑別には、穿刺吸引細胞診検査が有用である。
診察、検査のポイントを列記したが、悪性疾患を否定できない場合は、漫然と診察するのではなく、摘出・生検により病理検査を行い、確定診断を得ることが必要である。

鈴木幹男
1986年 滋賀医科大学医学部卒業
1986年 滋賀医科大学医学部耳鼻咽喉科入局
1999年 滋賀医科大学耳鼻咽喉科講師
2005年 福岡記念病院耳鼻咽喉科部長
2006年 琉球大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授

2019/05/10 11:20〜12:20 第1会場