第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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タイトル

IP―II、IP―I、CC(common cavity)
内耳奇形の中で最も頻度の高い IP―II、 IP―I、 CCの3つのタイプの奇形における人工内耳の効果を語音聴取能と聴性行動の発達で評価すると、 IP―II奇形が最も良好で、奇形を伴わない GJB2遺伝子変異例を対照として比較しても、両者に有意差を認めない。 IP―I奇形における人工内耳の効果は IP.IIに次ぐが、その成績は IP―IIに比してばらつきが大きい。その理由は明確ではないが、 IP―II奇形が遺伝子変異によるほぼ単一の内因性奇形であるのに対し、 IP―Iの多くは発生過程での発達停止と推測され、発達停止の原因が内因、外因を含め多様であるためかも知れない。 CC奇形は上述の代表的3奇形の中では人工内耳の効果が最も不良である。その原因としては、蝸牛と前庭が未分化であるという形態から考えて、蝸牛が分化している IP―IIや IP―Iに比して蝸牛神経そのものが低形成であること、人工内耳電極で蝸牛神経が効率的に電気刺激できないことによるとなどが推測される。われわれは、 CC奇形例の人工内耳手術中に電気刺激による聴性脳幹反応( EABR)を計測し、聴性反応が cavityの前下領域で得られることを見出し、これは CC奇形において蝸牛と前庭が形態的に未分化であっても、神経支配の空間的配置としては分化していることを示唆する。また、正常蝸牛のような tonotopicityがない CC奇形例でも多くの例で一定の語音聴取と表出が可能になるということは、人工内耳による長期の周波数別の電気刺激によって嚢状の内耳腔内に tonotopicityが新たに発達、形成されることを示唆する。これらに加えて、本講演ではわれわれが新規に発見したまれな内耳奇形例についても、その位置づけと人工内耳の効果を含めて報告する。

蝸牛神経管狭窄
側頭骨 CTで蝸牛神経管の狭窄がみられる場合、 MRIで内耳道内の神経を観察すると蝸牛神経が明瞭に観察できない例が多く、人工内耳の効果も蝸牛神経管狭窄がない例に比して概して不良であるが両側に高度難聴と蝸牛神経管狭窄がある場合にはほかに有効な対処法がないので人工内耳手術を行う。蝸牛神経管径に左右差がある場合には太い方を術側に選択する。

両側人工内耳
内耳奇形例の人工内耳手術でも、非奇形例と同様に両耳装用が原則である。しかし、 IP―II例では低音域に残存聴力がある場合が多く、難聴が進行して適応基準に達した時点で不良聴耳に人工内耳手術を行うが、良聴耳は音楽(ピッチ感覚)認知の発達も考慮してできるだけ補聴器装用で経過を観察し、補聴効果がなくなった時点で人工内耳手術を行って両側人工内耳とするという方針としている。 CCや IP―Iでは CTと MRIで内耳形態や内耳道との隔壁の状態、蝸牛神経あるいは第8脳神経の状態を観察し、条件の良い方に手術を行っている。反対側の手術を行うかどうかは術側の効果と反対側の形態的条件による。蝸牛神経管狭窄がある場合には、まず片側の人工内耳手術を行い、有効であれば対側にも人工内耳手術を行う方針にしているが、有効例が蓄積すれば両側同時手術の方向に適応判断が変化するかも知れない。

前庭機能と運動発達
加我らは先天性難聴に前庭機能低下を伴うと定頸や始歩が遅れることを報告するとともに、 CC例でも前庭眼反射が発達することを見出している。また、 IP―Iおよび CC例の人工内耳術後に VEMP検査を行い、人工内耳のスイッチオンで明瞭な反応が記録できた症例も報告しており、人工内耳が聴覚だけでなく、前庭系を介して運動機能発達にも寄与する可能性を示している。内耳奇形では、聴覚だけでなく前庭や運動機能の障害と発達についても十分な理解と、評価が必要である。

まとめ
内耳奇形は、長らく診断できても治療はできない病態ととらえられてきたが、人工内耳の出現とその性能の向上、手術法の洗練により、現在では十分対処可能な疾患の範疇に入っている。内耳奇形例の人工内耳手術では、術前の画像検査による内耳形態および内耳と周辺構造との解剖学的位置関係の正確な把握が非奇形例に比してはるかに重要で、内耳の形態に応じた正確な予後予測が手術適応決定と患者家族への説明に必要である。

内藤泰
昭和55年 京都大学医学卒 同附属病院耳鼻咽喉科研修医
昭和56年 国立京都病院耳鼻科医員
昭和60年 京都大学医学部附属病院助手
平成2年 米国UCLA, Victor Goodhill Ear Center客員研究員
平成5年 京都大学医学研究科講師 
平成16年 神戸市立医療センター中央市民病院 耳鼻咽喉科部長
平成21年 同副院長 兼務 現在に至る

2019/05/11 10:25〜11:25 第4会場