第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

プログラム

No

タイトル

メニエール病は原因不明の内耳内リンパ水腫疾患である。前庭症状として10分以上の回転性めまい発作が反復し、めまい発作に伴い耳鳴・難聴などの聴覚症状が出現もしくは増悪する。めまい発作が消失すると蝸牛症状は改善する。持続時間が短い発作の場合には良性発作性めまい症などの合併を考慮する必要がある。

メニエール病のめまい急性発作期には、患者を安静にして、めまい・嘔気・嘔吐を抑えるために7%重曹水(メイロン®︎)の点滴、ジアゼパム(セルシン®︎)やメトロクロプラミド(プリンペラン ®︎)の筋注やジフェンヒドラミン(トラベルミン®︎)の内服を行う。急性の聴力低下に対しては、ステロイド剤の投与が行われる。

発作期から回復したら保存的療法として生活指導および薬物治療を行いメニエール病の発作予防に努める。メニエール病の発症に精神的・肉体的過労、睡眠不足が関与しているため、ストレス回避に努め、過労防止、睡眠不足を緩和し、有酸素運動などの適当な運動について生活指導を行う。薬物治療として利尿剤、抗めまい薬を用いる。浸透圧利尿剤である Isosorbide(イソバイド®︎)はメニエール病に対する施設参加の二重盲検試験においてメシル酸ベタヒスチン(メリスロン®︎)を上回っていることが報告されている。そのほか、メニエール病(もしくはメニエール症候群)に適応をもつ薬剤として塩酸ジフェニドール(セファドール®︎)、ビメンヒドリード(ドラマミン ®︎)、アデノシン三ナトリウム(アデホス®︎)、カリジノゲナーゼ(カリクレイン ®︎、カルナクリン®︎)がある。保存的治療に抵抗してめまい発作を繰り返す難治性メニエール病の場合、以前より内リンパ嚢開放術、選択的前庭機能破壊術が考慮されてきた。内リンパ嚢開放術は、内リンパ嚢の吸収機能障害が内リンパ水腫の原因であるという考え方から内リンパ嚢外側壁を切開することで内リンパ腔の減圧を図る手術法である。聴覚・前庭機能を保存してメニエール病のめまい発作を予防する機能保存的手術である。

選択的前庭機能破壊術には内耳中毒物質鼓室内注入法と前庭神経切断術がある。内耳中毒物質鼓室内注入法ではアミノ配糖体抗菌剤のうち主にゲンタマイシンが用いられる。外来にて聴力や平衡機能への影響をみながら投与量・投与回数が決められることが多い。前庭神経切断術は開頭手術により第Ⅷ脳神経の前庭神経を切断する手術法であり、発作予防としては最も有効性が高い。選択的前庭機能破壊術では、いずれも破壊側の前庭機能が高度に障害される。特に高齢者においては前庭代償が不完全なためにふらつきが続く可能性が高い。また、聴力低下が生ずる可能性は内リンパ嚢開放術より高い。そのため治療前にメリットとデメリットを慎重に検討する必要がある。

2008年の Lancetの総説で米国のメニエール病段階的治療のアルゴリズムが発表され、中耳加圧治療は難治性メニエール病に対して外科的・前庭機能破壊的治療を選択する前段階治療と位置づけられた。2012年の本邦のメニエール病診療ガイドラインでは、段階的治療に用いられる中耳加圧治療として2種類の中耳加圧装置( Meniett®︎と鼓膜マッサージ機)が掲載された。 Watanabe et al.は、難治性内リンパ水腫患者に対する2種類の中耳加圧治療器の治療効果が同等であることを報告した。これらをうけて平成24年度経済産業省課題解決型医療機器等開発事業)の受託研究により、従来の鼓膜マッサージ機に比べてより小型・軽量で携帯可能、圧漏れセンサーが装備された新型中耳加圧治療機の開発が行われた。新型機に関しては独立行政法人医薬品医療機器総合機構( PMDA)の審査を経て、薬事承認を目指した前向きの治験計画が立てられ、平成26年から2年間に富山大学と岐阜大学で臨床治験が行われた。新型中耳加圧治療機の治験結果は PMDAによる審査をうけ、平成29年11月に中耳加圧装置として薬事承認され、平成30年9月に保険収載された。厚生労働省からは診療報酬の算定方法の一部改定が通知された。骨子は ①メニエール病または遅発性内リンパ水腫患者に対して中耳加圧装置を用いて療法を実施する場合で患者に指導管理を行う際に当該点数(在宅自己導尿指導管理料)を準用する、②指導管理を行うに当たって関連学会の定める適正使用指針に沿って実施した場合に限り算定する、である。②に従い、現在は日本めまい平衡医学会が策定した中耳加圧装置適正使用指針に従って患者の指導管理を行う場合に限り準用点数を請求することができる。中耳加圧装置適正使用指針は日本めまい平衡医学会ホームページ( http ://www.memai.jp/)で公開されている。難治性メニエール病または遅発性内リンパ水腫患者に対して中耳加圧装置を用いた中耳加圧療法を実施する際には遵守する必要がある。

將積 日出夫
1986年3月  富山医科薬科大学大学院医学研究科修了
1986年4月 富山医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科 助手
1995年6月 富山大学附属病院耳鼻咽喉科 講師
2006年8月 富山大学大学院医学薬学研究部耳鼻咽喉科頭頸部外科 助教授
2012年9月 富山大学大学院医学薬学研究部耳鼻咽喉科頭頸部外科 教授

2019/05/10 8:00〜9:00 第1会場