メニエール病は原因不明の特発性疾患であり、メニエール病を特異的に診断する確定診断法はいまだ確立していない。診断基準は症候の組み合わせから成り立っており、メニエール症候群という病名も過去に存在した。しかし、罹患者の側頭骨病理で、ほとんどの症例において内リンパ水腫が観察されたことから「内リンパ水腫」という病態に基づく疾患名として「メニエール病」が定着している。
今までメニエール病の診断基準を学会レベルで公式に発表している国として日本と米国が知られていたが、2015年に国際的なめまい平衡医学の学会であるバラニー学会から診断基準が発表された。この基準では、水腫の存在にとらわれず、むしろ遺伝性疾患としてメニエール病をとらえる考えを提唱している。2016年には日本めまい平衡医学会から新しい診断基準が発表され、 MRIによる水腫の同定が診断項目として採用された。
本公演では、単なる文言の違いにとらわれることなく、背景にある基本的な考え方を、以下の2点に焦点をあてて解説する。
1)日本と海外の診断基準
日本には、厚労省(旧厚生省)研究班が作成した診断基準と日本めまい平衡医学会(旧日本平衡神経科学会)が作成した診断基準の2種類がある。
・班会議診断基準:厚生省特定疾患メニエール病調査研究班1974年、厚労省前庭機能異常調査研究班2008年、メニエール病診療ガイドライン2011年
・学会診断基準:旧日本平衡神経科学会1987年、日本めまい平衡医学会2016年
海外では米国耳鼻咽喉科学会( AAO―HNS)の診断基準が1972年、1985年、1995年と発表されている。バラニー学会は国際的な Committeeである ICVDを組織し、まず、めまいに関する用語の定義を2009年に発表した。その後、2015年にメニエール病診断基準を発表した。国内外での診断基準改変のこの時期に、これらの事項を比較検討することでさらに理解を深めておきたい。
2)各診断基準で用いられている「めまい」の意味の違い
ICVDが定義しためまいの症状分類では“ vertigo”の定義は回転性めまいだけではなく、横揺れ、上下の揺れ、傾き等の“自分が動く感覚”も“ vertigo”の定義に入るとされている。従来、本邦の耳鼻咽喉科医師は、 vertigoは回転性めまい、 dizzinessがそのほかのめまいとおおまかに教えられてきたが、 ICVDではこれとは異なる定義となっていることに注意が必要である。
池園哲郎
1988年 日本医科大学 卒業
1992年 米国 National Institutes of Health(NIH)に Visiting Fellowとして留学
1995年 群馬県伊勢崎市民病院 耳鼻咽喉科 医長(3年間)
2000年 日本医科大学耳鼻咽喉科学 講師
2011年 埼玉医科大学耳鼻咽喉科学 教授
2016年 埼玉医科大学耳鼻咽喉科学 教授・科長
2018年 埼玉医科大学病院副院長
2019/05/10 8:00〜9:00 第1会場