はじめに
風疹や麻疹ウイルス感染は予防接種も定期接種として行われているものの、ときどき流行を繰り返している。風疹の流行により、職場内で妊婦が風疹に感染することで先天性風疹症候群の児が出生することが心配されている。麻疹は、感染力が強く、成人でも重篤な症状を来すため、最近流行して大騒ぎになった。患者が発症するとどちらも罹患により合併症が残ることがあるが、今回は特に難聴との関係について報告する。
1.風疹感染
本邦では、1977年から1995年まで、中学生の女子のみが風疹ワクチン定期接種の対象だった。その後予防接種法が改正され、男女共接種されるようになったが、一度もワクチンを接種していない30歳〜50歳の男性の抗体保有率が低く、流行につながっている。
潜伏期は14〜21日とされており、2〜3日の38度前後の発熱と赤くてかゆみを伴った小さな発疹が認められることが特徴である。通常の罹患では5,000人に1人の頻度で脳炎や血小板減少がみられるが、予後はほぼ良好とされている。
周産期の感染
胎児発育不全、低出生体重、小頭症などのほか、白内障、先天性心疾患、難聴を三大主徴が認められる。ほとんどの臨床症状は妊娠8週までに罹患した場合に出現する症状であり、それ以降での罹患では出現率は低下する。しかし、難聴は8週以降の感染でも90%に発症するとされている。難聴の特徴は、軽度〜重度難聴で両側性、一側性や進行性、遅発性の症例もある。側頭骨病理所見ではウイルスによる血管障害により内耳出血、基底膜、血管条の変性、有毛細胞の分化停止などの病態が混在しているとされている。
出生直後の聴力が正常であったとしても生後4カ月や1歳過ぎで聴力が低下してきた例を経験した。遅発性難聴の症例を見落とさないためにも、たとえ新生児聴覚スクリーニングにて聴力が正常であったとしても、3歳までは3カ月または6カ月ごとに聴力の評価を行っていく必要がある。精神運動発達遅滞を伴うことが多いため、重度難聴に対する補聴器装用効果を判断するには根気よく注意深い観察が必要である。また、弱視なども合併している視覚聴覚二重障害では手話など視覚を活用したコミュニケーションでさえ支障を来すこともある。個々の症例の発達レベルを評価しながら、どのようなコミュニケーションモードを活用するか考えていく必要があり、その上で人工内耳を留置することも1つの手段と考える。
2.麻疹感染
2006年から MR(麻疹風疹混合)ワクチンが導入され、接種対象が1歳と就学前の2回となった。さらに2008〜2012年は10代への免疫強化を目的として、中学1年生、高校3年生にも定期接種が行われた。このため2015年には麻疹排除認定が行われ、現時点でも麻疹抗体朋友率は2歳以上すべての年齢で95%とされている。しかし、今も海外では麻疹が流行しており、日本に帰国または渡航の際に持ち込まれることで単発的に流行することが少なくない。
潜伏期10〜12日を経て38度前後の発熱(2〜4日)、上気道炎症状や眼脂等がみられる。口腔内の粘膜発赤や白いコプリック斑なども表れ、いったん解熱したのち39度以上の発熱と耳介後部から始まった全身鮮やかな発疹がみられるようになる。飛沫感染し、感染力は非常に強い。合併症は脳炎と肺炎があり、2大死因とされている。特に5歳以下の発症では症状も強い。
難聴の原因としては中耳炎から生じる内耳炎に伴う感音難聴と、脳炎に伴う中枢性難聴の2つが挙げられる。
麻疹脳炎では、ウイルスが直接中枢神経に感染し、高熱、頭痛、意識障害、痙攣を起こす。発疹出現後2〜7日目に発症することが多く、致死率は15%であり、20〜40%には中枢神経系の後遺症が残る。
中耳炎は麻疹罹患の5〜15%に合併するとされ、ウイルスによるものではなく細菌の二次感染により生じる。中耳炎から内耳への炎症波及と血行性内耳感染の2通りの機序により両側高度難聴が生じる。ワクチン接種が普及する以前は後天性難聴の3〜10%を占めていたとされている。
周産期の感染
妊婦の麻疹は重症化しやすく発疹出現後すぐに子宮収縮が起きて、流早産につながる。このため未熟児出生となることもあり、それに伴う難聴が認められる。
守本倫子
1994年 新潟大学医学部卒業
1995年 慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科入局
1996年 川崎市立川崎病院耳鼻咽喉科
1998年 ベイラー医科大学(米国)耳鼻咽喉科リサーチフェロー
1999年 国立小児病院耳鼻咽喉科
2002年 国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科
2019/05/10 15:20〜17:20 第10会場