第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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内視鏡下鼻・副鼻腔手術Ⅴ型は拡大副鼻腔手術であり、両側前頭洞単洞化手術( Draf type III、 Endoscopic modified Lothrop procedure : EMLP)が最も施行されている代表的な術式で、そのほか副鼻腔炎の波及による眼窩内、頭蓋内疾患に対する内視鏡下経鼻的手術もこの型に含まれている。 V型は外科系社会保険委員会連合(外保連)の基準で難易度Eという高難度な手術に位置付けられており、その保険適用上、施設基準が設けられている。このように難治性疾患に対するアドバンス手術であるものの、実際のところ、特に EMLPの手技は近年の手術支援機器の進歩や国からの支援を受けて全国各地で開催されている鼻内内視鏡手術実習・講習会のプログラムに含まれていることなどから、施行する術者が年々増えている。ただし、手術の完成度が術後成績に大きく影響する手術なので、手技の基本を正しく習得して適切に手術を実践しなければならない。今回はⅤ型手術の中で最も施行頻度が高い EMLPの手技と応用について解説する。

【手術の適応】
EMLPの適用となる例は、通常の一側ずつの前頭洞開放だけでは疾患の治療として不十分な例である。本来の手術目的は ⑴前頭洞を大きく開放して洞内炎症をコントロールする、⑵前頭洞内の病変摘出のためのワーキングスペース確保、が主であったが、近年は ⑶内視鏡下経鼻的前頭蓋底切除・再建手術のためのワーキングスペース確保にも応用されている。

【手術手技の要点】
手術手技の要点は大きく開放することである。前頭洞の開放が不十分だと術後に骨増生、肉芽増生が生じて開放した前頭洞ドレナージルートの再狭窄や閉塞を生じることがある。前方は前頭洞前壁と鼻骨が連なるレイヤー、後方は前頭洞後壁から篩板や篩骨洞天蓋へと連続するレイヤー、外側は涙嚢内側の涙骨から眼窩内側壁・上壁、前頭洞外側底部へと彎曲して続くレイヤーを平滑に形成する。手術手技の大部分は骨削除なので鼻内用電動ドリルが必需品である。広く普及しているマイクロデブリッダー機器のドリルモードを使用すると骨削除、術野洗浄、吸引が同時にできるので便利である。さらに、水出し付きの高回転ドリルと吸引管を助手とともに 3or4―handed techniqueで用いると、慣れるまでに少し時間を要するかもしれないが、慣れると手術所要時間が短縮でき、効率的である。

Inside―out法と呼ばれる従来のアプローチ方法は、前頭洞を広く開放する Draf type IIB手術を片側ずつ行い、最後に鼻中隔前上部と前頭洞中隔を削除して左右を繋げて単洞化するという手順である。手術経験を重ねて最終的に EMLP完了後の開放状態が予測できるようになれば、最終的に削除される鼻中隔前上部を最初の時点で削除して鼻腔前上部を左右に広く開放した方がよい。そうすれば両側の外鼻孔から同時に内視鏡、鉗子、吸引管、ドリルを挿入して操作できるので、これらの器具が互いに干渉せず、作業効率が良くなる。

一方、最近は Outside―in法が普及しており、これは鼻中隔開窓後、鼻骨下から嗅裂に向かって第一嗅糸が出るまで粘膜を剥離し、その前方で前頭洞底を開放し、周囲へ開放範囲を広げていく方法である。この方法は比較的短時間で前頭洞内に到達でき、早い段階から前頭洞内を確認しながらドレナージルートを開放できるので、術者としては安心感を得ながら手術できるのが長所である。また、前頭蓋切除・再建術の適応となる鼻副鼻腔腫瘍の例において、腫瘍占拠のために inside-out法では鼻堤部からの術野展開が困難なときも outside―in法が有用であることが多い。

どちらの方法でも、術後の狭窄、閉塞を予防するためには、現時点では可能な限り広く開放するのが望ましく、骨削除が可能な部分を最大限削除することが肝要である。ただし、手術の大半が高回転ドリル操作であるため、解剖構造と電動機器の適切な操作方法の理解が不十分だと頭蓋底、眼窩などに重篤な副損傷を生じる可能性がある。そこで、これから EMLPを始める術者は、先に一度は献体や人工モデルなどを用いた手術解剖実習を経験してから実際の手術に取り組むことが望ましい。

小林正佳
1994年 三重大学医学部卒業
1994年 三重大学医学部耳鼻咽喉科入局
2000年 医学博士
2001年 三重大学医学部耳鼻咽喉科助手
2004年 米国バージニア州立大学耳鼻咽喉科・生理学助教(留学)
2007年 三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科講師
2011年 三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科准教授

2019/05/10 15:20〜17:20 第9会場