第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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内視鏡下鼻内副鼻腔手術( ESS)は1990年代に慢性副鼻腔炎に対する術式として普及し、2000年代には高画質の CCDカメラやマイクロデブリッダーまたナビゲーションシステムなどの支援機器が次々と開発され、安全性や手術操作が進化し術後成績は向上した。適応疾患も副鼻腔嚢胞から良性腫瘍や外傷などへと拡大されたが、2010年代になると ESSは鼻副鼻腔の枠を超え、頭蓋底手術や眼窩内手術も脳神経外科医や眼科医あるいは形成外科医とコラボレートしながら内視鏡下経鼻的に施行されるようになった。

一方で、鼻副鼻腔は周辺臓器である頭蓋や眼窩との骨壁が薄く、 ESSには視器損傷や髄液漏など重篤な手術時副損傷のリスクがつきまとう。 ESSが広く行われている分、副損傷の発生は残念ながら後を絶たない。また内視鏡下頭蓋底手術や内視鏡下眼窩内手術では、重要な血管や神経損傷のリスクは格段に高くなる。副鼻腔疾患であれ、頭蓋底や眼窩内疾患であれ、徹底的な病変の除去を目指しながらも手術を安全に遂行するには、手術解剖の深い知識と繊細で正確な鉗子操作が欠かせない。

本パネルディスカッションでは、国内外のエキスパートに ESSの基本的手技とその応用についてご講演いただく。まずオーストラリア University of New South Wales & Macquarie Universityの Richard Harvey先生には、基調講演として慢性鼻副鼻腔炎に対する内視鏡手術特に鼻茸の有無など副鼻腔炎のフェノタイプに即した手術戦略やコンセプトを中心にお話いただく。 Harvey先生は青年期を日本で過ごしたご経験があり、日本の風土や日本人の顎顔面骨格などを通して本邦における鼻副鼻腔炎病態を熟知されている。また、前頭洞単洞化手術における outside―in approachなど ESSに新しい術式を吹き込みながら、術後ケアや成績などに関する論文も非常に多く、鼻科領域では世界のリーダーの一人である。次いで、関西医大総合医療センターの朝子先生には ESS基本手技として ESS I―IV型を安全に行うためのコツや注意点を、三重大の小林先生には ESS拡大手術として ESS V型(両側前頭洞拡大手術)の手術手技における要点を、慈恵医大の鴻先生には ESSの応用として内視鏡下頭蓋底手術を、本邦での現状も含め手術動画を交えながらそれぞれお話しいただく。

Harvey先生と3名の日本人演者の先生方のご講演を通して、 ESSのスタンダードな術式や目指すもの、またアドバンス編としての拡大前頭洞手術や頭蓋底手術に関して、日本と欧米との相違点を踏まえ、聴衆された先生方のご参考になるような実りあるディスカッションができれば幸いである。

池田勝久
1981年東北大学医学部卒業
1983年東北大学医学部耳鼻咽喉科、助手
1987~89年米国ミネソタ大学医学部留学
1993年東北大学医学部耳鼻咽喉科、講師
1999年東北大学医学部耳鼻咽喉科、助教授
2003年順天堂大学医学部耳鼻咽喉科、主任教授

2019/05/10 15:20〜17:20 第9会場