花粉症を含むアレルギー性鼻炎に対する治療として、唯一根治を望める治療法としての免疫療法の役割は大きい。そこには抗原特異的であるアレルゲン免疫療法と非特異的である抗体療法が存在し得る。アレルゲン免疫療法は1911年に Noonが初めて実施して以来、皮下注射によるアレルゲン免疫療法( Subcutaneous Immunotherapy : SCIT)が現在でも標準的なアレルゲン免疫療法として位置づけられている。しかし、1986年に英国における SCITによる致死的なアナフィラキシーに関する調査報告により SCITの安全性に警告がなされたことから、皮下以外の投与経路によるアレルゲン免疫療法が注目され、1986年に最初の舌下投与による免疫療法( Sublingual Immunotherapy : SLIT)の Randomized controlled trialが実施された。その後、数多くの SLITの臨床試験が実施され、1993年にヨーロッパアレルギー臨床免疫学会が Position Paperにて SLITは Hyposensitizationの“ promising route”であることを認め、1998年に WHOが、2001年に WHO―ARIA( Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma)が SLITは成人および小児において SCITの代替可能な治療法であることを支持するに至った。また、2009年の WAOの Position Paperには小児も含めて SLITの有用性が明記され、現在、 SCITおよび SLITは、アレルゲン免疫療法の代表的な投与方法として確立されている。
一方、抗体療法として1991年 Genentechはヒト IgEの定常領域で、 Fcε受容体Ⅰと結合する Cε3に特異性を持つ抗体ヒト化単クローナル抗体 Omalizumabが作成された。この抗体は血中のフリー IgEの Cε3と抗原抗体反応により IgE.抗 IgE複合体が形成する。このためマスト細胞に結合する IgEが減少して、抗原とマスト細胞との結合・架橋を抑制し、アレルギー反応を制御する。B細胞上の膜結合型の IgEとも反応するために ε鎖の mRNA発現を抑制し、B細胞の IgE産生細胞への分化の抑制を行う。このように免疫的修飾を加えるこの治療法は抗原特異的ではなく、非特異的免疫療法である。
本パネルディスカッションではアレルギー性鼻炎に対するこれら免疫療法に関して、その効果発現機序と考えられる制御性T細胞、 IgG4などの役割を考慮して、免疫療法の展望を考えるものである。
藤枝重治
1986年 福井医科大学医学部医学科卒業
1993年 米国UCLA臨床免疫アレルギー科に文部省長期在外研究員として滞在
1995年 帰国
1996年 福井医科大学医学部附属病院講師
2002年 福井医科大学医学部耳鼻咽喉科学講座教授
2003年 福井大学・医学部・感覚運動医学講座・耳鼻咽喉科頭頸部外科学教授
2010年 福井大学医学部附属病院副病院長(現在:経営-医療安全)
2019/05/10 15:20〜17:20 第6会場