第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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【目的】 Stage I/II( T1-2N0)舌癌を対象に、舌部分切除単独が舌部分切除+予防的頸部郭清に対して全生存期間において非劣性であるかどうかをランダム化比較にて検証する。【背景】これまで海外においても日本においても、早期舌癌の頸部リンパ節郭清に関する標準治療は確立しておらず、各施設や医師の判断により予防的頸部郭清が行われたり行われなかったりしてきた。

一般的に腫瘍の深達度が 4〜 5mmを超える舌癌では潜在的リンパ節転移が多くなると言われている。 Huangらのメタアナリシスでは cut off値として 4mmが最適であると報告されたが、その潜在的リンパ節転移割合は厚み 4mmで4.5%、 5mmで16.6%であった。また2015年に報告された D’Cruzらのインドの第Ⅲ相試験では浸潤の深さ 3mmで転移割合が5.6%、 4mmで16.9%に上昇すると報告されている。これらは転移割合が増加する cut off値を示したに過ぎず、生命予後の優劣の規準ではない。腫瘍の深達度が 4〜 5mmを超える全例に対して予防的頸部郭清を行うことについては、転移を有しない80%以上の患者に対し不要な侵襲を加えることとなり、過剰治療になる懸念がある。

インドの報告は舌部分切除単独に対する予防的頸部郭清の優越性を示したが、再発時にリンパ節転移が進行した状態で見つかることが多く(68%で N2/N3、そのうち93%で節外浸潤陽性)、切除不能割合が18%と高かった。また術後フォローアップが触診のみ、もしくは触診+超音波のみであり、日本で一般的に行われる CT検査は規定されておらず、医療環境、診断技術が明らかに異なるため、その結果をそのまま日本の日常診療に外挿することはできないと考えられている。

【本試験の対象について】
予防的郭清の要否を検討する上で、対象を適切に選択することが重要である。インドの試験のサブグループ解析の結果からは、病理標本での 3mm以下の薄い病変に対しては予防的頸部郭清を行うメリットが小さいと報告されている。また転移割合や予後と関連する深達度のカットオフについて世界的なコンセンサスはないが、過去の報告や、 UICC- TNM分類第8版で浸潤の深さを示す depth of invasion( DOI)がT因子を規定する因子に加えられ、 DOIが 10mmを超えると T3に分類されるようになったことに基づいて、 DOI 3〜 10mmの患者を本試験の対象としている。

【期待される成果】2017年11月24日、 UMIN-CTRへの登録が完了、試験開始となった。本試験は JCOG頭頸部がんグループ33施設による多施設共同試験である。
舌部分切除術単独群の予防的頸部郭清群に対する非劣性が証明されれば、多くの不要な予防的頸部郭清を回避することが可能となり、より低侵襲な治療を将来の患者に提供することができる。一方で、舌部分切除術単独群の非劣性が証明されなかった場合には、日本のみならずほかの先進諸国においても予防的頸部郭清を標準治療として受け入れることが可能となり、明確なエビデンスがないまま行われている舌部分切除術単独への警鐘となる。

花井信広
1996年 名古屋市立大学耳鼻咽喉科入局
2000年 愛知県がんセンター頭頸部外科 レジデント
2001年 日本耳鼻咽喉科学会専門医
2004年 名古屋市立大学耳鼻咽喉科助教
2004年 医学博士
2007年 愛知県がんセンター中央病院頭頸部外科医長
2018年 愛知県がんセンター中央病院頭頸部外科部長

2019/05/09 16:00〜17:30 第7会場