第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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現在アカデミアの外部資金は学術振興会科学研究費と日本医療研究機構( AMED)研究費が中心であり、科学研究費にくらべ AMED研究費では臨床などの成果が強く求められている。 AMED研究の内容は、オールジャパン体制での医薬品創出・医療機器開発プロジェクト、革新的医療技術創出拠点プロジェクト、再生医療実現プロジェクト、疾病克服に向けたゲノム医療実現プロジェクト、癌研究プロジェクト、新興・再興感染症制御プロジェクト、難病克服プロジェクトなど多岐にわたる。昨年の総会において、耳鼻咽喉科領域展開中の AMED研究を紹介するシンポジウムが企画された。今年も現在展開中の耳科学領域研究の4つについて紹介する。

宇佐美真一先生(信州大)には「原因診断に基づく小児難聴の治療・療育システム構築に関する研究」について報告していただく。この研究では、遺伝学的検査、先天性サイトメガロウイルス感染症検査、画像検査を組み合わせて難聴児の原因診断を全国80施設の共同研究施設で行い、保険診療の遺伝学的検査で原因特定に至らなかった症例では次世代シークエンサーを用いた網羅的解析も実施した。その結果、人工内耳装用児の70%の原因が診断可能であり、難聴原因により人工内耳装用後の聴性行動発達および小学生時の語彙力が異なることから難聴の原因が重要な予後予測因子であることが見出されている。

小川郁先生(慶應大)には「耳鳴診療ガイドラインの開発」について報告していただく。本邦においては1984年に標準耳鳴検査法1984が作成され、1993年に改訂されたが、その後長い間改訂がされていなかった。近年、耳鳴診療のさまざまなエビデンスが得られ、新しい耳鳴診療ガイドラインの作成が求められていることを背景に、2016年度に本研究が採択された。本研究の基本骨格は、集積したエビデンスを示すこと、耳鳴検査法に質問票を組み込むことで診療方針を決めること、耳鳴に対する教育的(指示的)カウンセリングと耳鳴に対する治療として最もエビデンスの高い音響療法の普及を目的とすることであり、既に原案(耳鳴診療ガイドライン2019年版)は完成し、日本聴覚医学会ガイドライン委員会、同理事会、日耳鼻学会学術委員会、同理事会での検証および AMEDによる最終ヒアリングも終了し、2019年5月の発刊が予定されている。
大森孝一先生(京都大)には「聴覚に依存しない新規認知機能評価尺度の開発」について報告していただく。本研究では、難聴者にも行える認知機能評価尺度の開発、補聴器装用が認知機能等に及ぼす影響の解析を主な研究課題としている。従来の神経心理学的検査による認知機能評価では Mini Mental State Examination( MMSE)が最も多く使用されているが、 MMSEには音声言語による課題が含まれるため、難聴を有する場合認知機能が低く評価される可能性が挙げられている。このため難聴者にも使用可能な聴覚に依存しない新しい認知機能評価尺度を開発し、その妥当性・信頼性について検討されている。

高野賢一先生(札幌医大)には「人工内耳装用者の支援センター機関モデル化事業と発達段階別 PDCAサイクル基本型の構築」について報告していただく。この研究では聴覚障害者の客観的状態認識に基づき,モデル事業として多職種が参加する双方向サポートシステムを備えた総合支援センター機関として札幌医科大学附属先端聴覚医療センターを設置した。地域内で情報が蓄積され医療・教育機関相互の情報交換も継続されている人工内耳装用者を対象に、生活言語習得期、学習言語習得期、高等教育期、就労準備期の4つのフェーズに分けて、段階別状態認識プログラム作成とその評価、生活言語育成プログラム・評価系作成、学習言語育成プログラム・評価系作成、インターンシッププログラム・評価系作成、言語機能育成・評価系のためのソフト・広域情報ネットワーク作成、聴覚障害支援センターのあり方についての6つの課題について検討されている。

2019/05/09 16:00〜17:30 第6会場