第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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私は東京都豊島区に診療所を開いておりまた医師会・医会の業務にも深くかかわっていることから、豊島区における活動と東京都の各地区での診療体制の現状について説明したい。

診療所における各職種間の連携は、1.各耳鼻咽喉科診療所間の関係2.高次病院、大学病院との関係3.歯科との関係4.多職種との関係、の4つにに大きく分けられると思うが、これらの連携に医師会、行政が絡んで良好な関係を維持することが大切である。日頃私たち耳鼻咽喉科開業医は学校健診や予防接種などに於いて医師会および行政とのかかわりを有しているが、上手に医師会を巻き込むことによりさらに関係強化が期待できる。耳鼻咽喉科開業医は各都道府県の耳鼻咽喉科医会が主催する高次病院、大学病院の耳鼻咽喉科の先生方の講演にはよく参加し、また各地区耳鼻咽喉科医会では検診事業、補聴器相談、喉頭癌検診等に参加することにより、各地区の耳鼻咽喉科医同士は意思疎通が良好であると考える。また、各地区医師会が主催する講演会などでは、主として医療安全、医療倫理、公衆衛生など医師としての重要な領域についての講演が企画され、開催されている。このような医師会活動に理事として参加している経験からは、医師会活動を通して行政、多職種とのコミュニケーションが容易になるという印象を強く持っている。この背景から豊島区では歯科医師との関係、行政との連絡は非常に良好な関係を保っており、これらの状況を説明したい。

豊島区は東京都からモデル事業の予算支援により東京都在宅医療ネットワーク推進モデル事業を平成20年より開始し、昨年度からは豊島区医師会が中心となり、 ICT( Information and Communication Technology)を活用した多職種連携体制の構築を行っている。医師会では多職種連携事業として「口腔・嚥下部会」、「リハビリ部会」、「訪問看護部ステーション部会」などの各部会を立ち上げ、行政と共に多職種の人たちで MCS( Medical Care System)というインターネットツールを使い認知症、緩和ケア、がん、脳卒中などの疾患を扱うようになり、嚥下障害診療においても多職種連携ができるようになった。特に耳鼻咽喉科医と歯科医の関係においては以下の基本的な事項について確認がなされている。1)比較的安定している症例、例えば特養施設でミールラウンドの中で一部の歯科医が VEを施行している例があることを聞くが、耳鼻咽喉科医のマンパワー不足や患者・家族のニーズなどにより黙認している。しかし2)在宅における経口摂取開始例や認知症で VE挿入困難例などは必ず耳鼻咽喉科医が VEを施行するように取り決めている。昨年11月には歯科医師会館において豊島区在宅医療連携推進会議の「口腔・嚥下部会」と「訪問看護ステーション部会」の2つの部会が合同で研修会を開催し、演者が講師となり、被験者(健常者)に実際にとろみ着色水、着色ラーメンなどを実食してもらい、 VEによる咽喉頭所見を供覧し、看護師・言語聴覚士の方に頸部聴診による実際の音の聴取を体験していただき好評であった。今後は介護職・ヘルパーも同席するなど、皆が参加し体験できる講演会を予定している。

次に東京都内における摂食・嚥下治療の講習会や研修会の開催状態について4年前と昨年にアンケート調査を都内30地区の耳鼻咽喉科医会長に依頼した結果について報告する。東京都の場合はほかの道府県とは環境が異なると考えられるが、各区・市町村単位での行政を巻き込んでの対応が重要である。都内での4年前の調査と比較すると、まだ数カ所ではあるが、徐々に耳鼻咽喉科医が中心になって講習会、研修会が数カ所で行われるようになっている。しかしながらいまだ着手していない地区も多く、耳鼻咽喉科医のマンパワー不足に加えて歯科医の取り組みが勝っている地区が多くなっており、今後の耳鼻咽喉科医による嚥下障害診療への積極的な関与が必要となる。

部坂弘彦
1983年 北里大学医学部卒業
1983年 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科入局
2000年 東京慈恵会医科大学非常勤講師
2003年 東京都耳鼻咽喉科医会常任理事
2008年 東京都豊島区医師会総務理事
2012年 日本耳鼻咽喉科学会保険医療委員
2015年 社会保険診療報酬基金東京支部審査員

2019/05/10 15:20〜17:20 第8会場