第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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超高齢社会を迎え、本邦では摂食・嚥下障害が医療の現場で大きな問題となっている。高齢者では加齢により身体機能、認知機能、免疫機能などが低下するばかりでなく、脳血管障害や神経筋疾患など嚥下障害を引き起こす疾患も好発する。嚥下障害は栄養障害や脱水、誤嚥性肺炎や窒息のリスクにつながることになり、経口摂取が制限されることによる QOLの低下のみならず、生命予後にも関連する。一方、小児領域においても周産期および小児期医療の進歩により、さまざまな障がいや疾患を有する小児の生命予後が改善してきたこと、これらの患児の QOLに目が向けられるようになったことから、嚥下障害への対応が課題となってきている。

このように嚥下障害は原因となる疾患のすそ野が非常に広く、耳鼻咽喉科のみならず脳神経外科、神経内科、呼吸器内科、小児科、歯科口腔外科、リハビリテーション科など、さまざまな診療科がかかわる。また、看護師、言語聴覚士、管理栄養士などの多職種の協力も必要である。このため、嚥下障害診療においては「医療連携」がキーワードとなる。そこで今回、黒野会長に「嚥下障害診療における医療連携」をテーマとしたシンポジウムを企画していただき、その現状と今後の展望について議論する機会をいただいた。

嚥下障害患者を急性期病院から回復期・慢性期病院へつなげる病病連携、在宅や施設における療養につなげる病診連携の必要性は認識されているが、それらを機能的に動かすことは必ずしも容易ではない。藤島一郎先生(浜松リハビリテーション病院)にはリハビリテーション科医の立場から、嚥下障害に関する医療連携の現状と問題についてお話しいただくこととした。また、嚥下障害診療にかかわる医療連携を推進するためには地域での連携体制を構築することが基本となる。東京都新宿区では摂食嚥下障害にかかわる多職種(かかりつけ医・訪問看護師・リハビリテーション科医・歯科医・薬剤師・栄養士・ケアマネジャー等)による嚥下障害連携支援を行っており、それにかかわっている田山二朗先生(国際医療研究センター)には、地域での医療連携体制の具体例を紹介していただく。

香取幸夫先生(東北大学)には嚥下障害診療にかかわる大学の役割について、急性期病院としての摂食嚥下機能評価の実施、医療者関係者や市民に対する教育・啓発活動、耳鼻咽喉科医会・医師会・歯科医師会などと協働した研修や診療支援、嚥下障害診療に関するエビデンス創出や新規治療法の開発などの面からお話しいただく。津田豪太先生(聖隷佐倉市民病院)は、院内での診療体制の整備とともに県内での摂食嚥下ネットワークの設立など医療連携を主導している。今回、地域の中核病院の役割とともに、嚥下障害診療の実際についてお話いただく予定である。部坂弘彦先生(東京都)には診療所の立場から医師会を中心とした医療連携ネットワークの概要とその役割について紹介していただく。

嚥下障害診療にはさまざまな職種の医療者がかかわることになるが、その中で耳鼻咽喉科医は診断・治療において重要な役割を担う。本シンポジウムが、会員諸氏が嚥下障害診療により積極的に取り組む契機となることを期待している。

2019/05/10 15:20〜17:20 第8会場