ヒトの種々の機能を回復ないしは改善する医療には大きく分けて2種類がある。一つは iPS細胞などの種々幹細胞、細胞成長因子などを利用する再生医療であり、もう一つは人工内耳などに代表される人工機器による医療である。いずれも各分野で近年医療の中心的存在となりつつあり、その発達にはめざましいものがある。
耳鼻咽喉科領域の中でも耳科領域は、ヒトにとって非常にユニークな機能であるコミュニケーション手段に大きな役割を果たす「聴覚」を取り扱うため、ヒトの高度の精神活動や QOLにかかわる重要な領域である。その意味で耳科領域の再生医療のしかも最前線の部分をテーマにした本シンポジウムは耳鼻咽喉科領域のうちでも非常に興味あるものといえる。
今回のシンポジストはいずれもこの領域での最先端の研究を担っておられ、それぞれのテーマも興味深いものばかりである。金丸眞一先生の「再生医療による鼓膜穿孔閉鎖」は、患者の自家組織採取を必要としない低侵襲の再生医療であり、今後一般臨床で広く実践されるものと期待される。小島博己先生の「培養鼻腔粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療」は臨床応用も間近というところまで来ており、耳科術者にとって長年の希望であった癒着性中耳炎の確実な手術的治療に向けて着実な成果を上げておられる。細谷誠先生はこれまでもヒト iPS細胞を用いて遺伝性難聴の研究を進められ、 Pendred症候群の病態解明や治療法の開発など成果を上げてこられたが、今回は「ヒト iPS細胞と霊長類モデル動物を用いた内耳疾患病態生理解明と治療法開発」として、ヒト iPS細胞を用いた創薬や霊長類モデルでの内耳発生学的検討を解説いただく予定である。中川隆之先生は「感音難聴に対する再生医療開発の現況と今後の展開」として、すでに突発性難聴に対する有効性について報告された IGF-1の蝸牛求心性シナプス再生誘導効果という新しい作用について、また Single-cell transcription解析による有毛細胞再生についても解説いただける予定である。
このようにいずれのシンポジストからも大変魅力的な、また一部臨床応用も可能なトピックをご提供いただける予定であり、私たち臨床家にとっても楽しみなシンポジウムである。本シンポジウムを通じて、耳鼻咽喉科医に耳科領域の再生医療のまさに最先端について知っていただければ幸いである。
2019/05/10 15:20〜17:20 第7会場