第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

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本邦における肺炎球菌ワクチンは、小児における13価肺炎球菌結合型ワクチン( pneumococcal conjugate vaccine 13 : PCV13)の定期接種および、高齢者における23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン( pneumococcal polysaccharide vaccine 23 : PPSV23)の定期接種および PCV13である。小児に対する PCV13の接種により侵襲性肺炎球菌感染症の発症率は減少し、高齢者では PPSV23とインフルエンザワクチンを併用することで肺炎球菌性肺炎の死亡率を下げることが報告された。 PCV13の効能に中耳炎の予防は含まれないが、 PCV13の定期接種にともない、急性中耳炎の患者数が減少していることや、鼓膜喚起チューブ留置術の減少が報告されている。しかし、肺炎球菌の血清型は90種以上に分類され、ワクチン型以外の血清型による感染症が増える血清型置換が問題となっており、中耳炎の起炎菌においても同様の報告が散見される。また PPSV23はT細胞非依存性の抗原であるため免疫原性が低く、2歳未満の乳幼児では効果が期待できない。また、メモリーB細胞は誘導されないため、血清型特異的抗体の濃度が接種後5〜10年で低下する。そのため高齢者の接種で5年ごとの再接種が推奨されている。

血清型依存的なワクチンの問題点を解消するためには、莢膜ポリサッカライド以外の肺炎球菌すべてに存在する抗原をターゲットとするワクチンの開発が望まれる。新規ワクチン抗原に望まれる要素として、1)肺炎球菌臨床分離株において保存されている「ユニバーサルワクチン抗原」であること。2)動物実験にて、免疫原性と感染防御効果が確認されること、3)獲得された免疫が長期にわたって維持されること、4)液性免疫ととともに細胞差性免疫が誘導されること、があげられる。これらの要素を満たす新規ワクチン抗原としては、次のような抗原 pneumococcal surface antigen A( PsaA)、 pneumococcal surface protein C( PspC)、 pneumococcal choline―binding protein A( PcpA)、 pneumolysin、 polyhistidine triad proteins( Pht)、 pneumococcal surface protein A( PspA)が次世代肺炎球菌ワクチンの抗原候補として挙げられている。これらの抗原としたワクチン開発がすすんでいる。

一方でこれらのワクチンは、血清中の抗原特異的 IgGとオプソニン活性を上昇させるが、粘膜免疫応答による分泌型 IgAを誘導することはできない。分泌型 IgAは感染前の病原菌に働き、感染を防御すると考えられる。われわれは、マウスの動物実験で PspAを用いた経皮接種の粘膜免疫誘導型ワクチンの研究を行い、 PspA特異的な全身免疫と粘膜免疫の誘導ができ、鼻腔の肺炎球菌クリアランスが上昇したことを報告した( Nagano et al. laryngoscope 2018)。また、すべてのグラム陽性および陰性菌に含まれるホスホリルコリン( PC)に注目し、 PCの経粘膜投与によって全身および粘膜免疫応答が誘導されることを明らかにし、外分泌液中の PC特異的 IgAそして血清中の PC特異的 IgGは複数の肺炎球菌およびインフルエンザ菌と反応し、鼻腔に接種した両細菌のクリアランスを亢進させた( Tanaka et al. Vaccine 2007、 Maseda et al. ANL 2017)。したがって、 PCを抗原とする粘膜ワクチンは広域スペクトラムを有し、分泌型 IgAを誘導できるワクチンとなり得ると考えられる。現在われわれは、 PCが PCV13ワクチン内に含まれていることに注目し、 PCV13の免疫後に PC経鼻免疫を追加することによる免疫応答を検討している。

本シンポジウムでは、これらの研究の詳細を述べるとともに、今後の肺炎球菌ワクチンの展望について講演する。

大堀純一郎
2000年 熊本大学医学部卒業
2000年 鹿児島大学医学部耳鼻咽喉科入局
2006年 日本耳鼻咽喉科学会専門医
2007年 鹿児島大学耳鼻咽喉科学 医学博士
2008年 鹿児島大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教
2011年 鹿児島大学耳鼻咽喉科頭頸部外科 講師

2019/05/10 15:20〜17:20 第5会場