耳鼻咽喉科領域は外界に直接するため、ウイルスや細菌をはじめとする微生物や外来性抗原に絶えず暴露されている感染およびアレルギーの標的部位であり、免疫学的最前線に位置する領域である。また、悪性腫瘍の好発部位の一つでもあるが、その予後は不良であり治療に伴う機能障害が患者 QOLを大きく低下させる。このような耳鼻咽喉科領域の幅広い疾患を「縦の糸」とすれば、それぞれの疾患概念を横断的に結びつける「横の糸」が免疫学であるといえる。現在、耳鼻咽喉科領域においては、肺炎球菌ワクチンの臨床応用に伴う急性中耳炎の変化、鼻アレルギーの主要な抗原であるダニやスギに対する舌下免疫による新規治療、さらには免疫チェック機構を利用した癌免疫治療が応用されるとともに、今後さらなる展開が期待されている。
本シンポジウムでは、“耳鼻咽喉科領域のワクチン研究最前線”というテーマで、感染症、アレルギー、腫瘍の3つの領域の最新の研究についてご紹介いただく。
鹿児島大学の大堀純一郎先生には、“肺炎球菌ワクチン現状と今後の展望”というタイトルで、13価肺炎球菌蛋白結合型ワクチン( PCV13)の臨床導入に伴う肺炎球菌感染症の変化と肺炎球菌表面蛋白抗原( PspA)あるいは細菌に共通して存在するホスホリルコリン( PC)を用いた新しいワクチン開発と経粘膜免疫応答についてご講演をいただく。東京慈恵会医科大学の浅香大也先生には、“スギ花粉症に対する免疫療法”をテーマに、スギ花粉ペプチド含有米(花粉症緩和米)を用いたアレルゲンペプチド免疫療法と経口免疫寛容についてご講演をいただく。千葉大学の櫻井大樹先生には、“頭頸部癌に対する NKT細胞を利用したワクチン療法”として、抗腫瘍効果の高い NKT細胞を用いた新しい癌ワクチンの開発、とりわけ根治治療が困難な再発・進行頭頸部癌に対する研究をご紹介いただく。
また、基調講演として、国立感染症研究所病理部長谷川秀樹先生に、“経鼻インフルエンザワクチンと分泌型 IgA抗体”として、インフルエンザの流行を防ぐことができる高い予防効果を持った経鼻インフルエンザワクチンの研究についてご講演をいただく。
いずれの先生も、それぞれの領域のワクチン研究の最前戦で活躍されている先生方である。本シンポジウムが、耳鼻咽喉科領域における免疫研究の基盤である粘膜免疫と腫瘍免疫という2つの機序についての知識を深めるとともに、耳鼻咽喉科領域における研究の面白さを知る機会となることを期待している。
保富宗城
1991年 和歌山県立医科大学医学部卒業
1991年 和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科入局
1997年 有田市立病院耳鼻咽喉科
2001年 和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科講師
2003年 米国アラバマ州立大学バーミンガム校微生物学
2009年 公益財団法人がん研究会有明病院頭頸科
2012年 和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科准教授
2016年 和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授
2019/05/10 15:20〜17:20 第5会場