第120回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会

プログラム

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タイトル

1.はじめに
古くよりベル麻痺(特発性顔面神経麻痺)患者に対しては副腎皮質ステロイドが、ラムゼイハント症候群(以下ハント症候群)患者に対してはこれに加え抗ウイルス薬が投与されてきた。しかしながら、ベル麻痺重症例には無疱疹性帯状疱疹( zoster sine herpete;以下 ZSH)が多く、これらの予後が不良であるうえに、初診時にこれを鑑別することがほぼ不可能なことから、われわれはベル麻痺とハント症候群の初期対応をあえて区別せず、麻痺スコアを用いた重症度別治療を実践している。本口演ではその実際を紹介する。

2.ベル麻痺保存的治療の実際
図に示すように発症3日以内に受診してスコア12点以上の不全麻痺であればプレドニゾロン( PSL) 60mg内服とバラシクロビル( VCV) 3, 000mg内服を併用する。一方で、発症3日目以内にすでにスコア10点以下の完全麻痺であれば即日入院の上、 Stennert法に準じたステロイド大量点滴療法としてハイドロコルチゾン( HC) 1, 000mg( PSL 200mgとほぼ等力価)よりの漸減投与を VCV 3, 000mg内服に加えている。初診時に不全麻痺であった場合は発症3日目以後に必ず再診し、完全麻痺への進行を認めた際にはその時点で、同様に入院のうえの大量点滴に切り替えている。

過去3年間に198人のベル麻痺患者を本プロトコールに従い診療した結果、完全治癒Ⅰに達した症例が125例(75.3%)、完全治癒Ⅱが26例(15.7%)、不完全治癒が7例(4.2%)、減荷術を施行したもの(ここでは保存的治療不成功例として扱う)が8例(4.8%)であった。全体的な完全治癒率は91.0%に達した。初診時からの経過中に不全麻痺のまま推移した症例では全例が完全治癒となった。

3.ハント症候群完全麻痺に対するステロイド・抗ウイルス薬高用量併用療法ハント症候群の麻痺予後はベル麻痺に比較して著しく不良である。 Murakamiらは、 PSL 60mgとアシクロビル( ACV) 4, 000mgの内服あるいは 750mgの点滴を併用した結果、中等症例も含めた治癒率を53%と報告した。一方で稲村らが完全麻痺のみを対象として、 PSL 200mgの大量点滴に加えて ACV 750mgの点滴を行ったところ高度麻痺の治癒率は61%となった。

われわれは図に示すように不全麻痺についてはベル麻痺と同じ内服治療を実践するとともに、初診時すでに完全麻痺を呈した症例ではベル麻痺同様に HC 1, 000mgを点滴し、これに ACV 1, 500mg(通常量の倍量、 500mg×3回/日)を追加した。また不全麻痺から進行が確認された完全麻痺例ではやはりその時点で治療法を変更した。

こうして過去3年間にハント症候群60例を治療した結果、完全治癒Iが31例(56.4%)、完全治癒Ⅱが15例(27.3%)、不完全治癒が5例(9.1%)、減荷術施行例が4例(7.3%)となった。完全麻痺症例のみの治癒率は83.7%となった。初診時に不全麻痺であった症例では、そのまま内服により不全麻痺を維持した症例、進行して治療法を点滴に変更した症例を問わず、全例が治癒していた。

濵田昌史(はまだ まさし)
学歴・職歴
平成元年3月 高知医科大学(現、高知大学医学部)卒業
平成3年3月 高知市民病院研修医終了
平成8年4月~平成10年3月 ハーバード大学医学部耳鼻咽喉科留学
平成11年3月 高知医科大学大学院博士課程修了
平成11年4月 高知医科大学医学部助手(助教)
平成18年4月~12月 イタリア、ピアチェンツァ、グルッポ・オトロジコ(マリオ・サンナ教授)留学
平成20年7月~ 東海大学医学部耳鼻咽喉科講師
平成25年4月~ 同准教授

2019/05/10 15:20〜17:20 第3会場