末梢性顔面神経麻痺は種々の病因で生じるが、 Bell麻痺と Ramsay Hunt症候群の頻度が高く全体の約三分の二を占め、耳炎性麻痺、外傷性麻痺、腫瘍性麻痺がこれら続く。 Bell麻痺は予後良好な疾患で約7割は自然治癒し、適切な治療を施行すれば90%以上が完治する。一方、 Hunt症候群は予後不良で自然治癒は約30%、治療にても70%前後しか完治しない。
Bell麻痺と Hunt症候群の治療は、麻痺発症1週間以内の急性期治療と1週間から1カ月間の亜急性期治療、それ以降の慢性期治療に分けることができる。
急性期治療はステロイドや抗ウイルス薬を中心とした薬物治療、亜急性期治療は顔面神経減荷術で、これらの目的は神経の再生よりはむしろ変性を防止することである。つまり、神経病態学的には髄鞘変性から軸索変性に進行するのを防ぐことである。そして、これらの治療で神経変性(軸索変性)が90%( ENoG10%)を越えなければ予後は良好で、顔面の拘縮や病的共同運動も軽微に留まる。しかし、麻痺が重症でかつ早期に適切な治療が施行されなかった場合には、神経線維は髄鞘変性から軸索変性に移行し、末梢への Waller変性を来し高度麻痺となる。そして、中枢から表情筋に神経線維が再生するまで数カ月間、麻痺は回復しない。
そして、たとえ麻痺が回復したとしても神経再生の際に生じる線維の sproutingと過誤支配により病的共同運動や拘縮が生じる。顔面神経麻痺に対するリハビリテーションは麻痺発症1カ月以降の慢性期に神経の過誤支配を予防し、病的共同運動や拘縮を軽減させることを目的として行うものである。しかし、実際に生じた病的共同運動や拘縮はリハビリテーションでは改善することは困難で、ボトックスの筋注や上眼挙筋などの選択的筋切除術が必要になる。
また、顔面神経麻痺再生の再生は1年でほぼ完了し、それ以降の自然回復は期待できない。したがって、麻痺発症1年を経過した症例、あるいは外傷や腫瘍で顔面神経が切断された症例には神経の再建や筋移行などの動的再建や眉毛と吊り上げや face liftingなどの静的再建が必要となる。
本シンポジウムでは、顔面神経麻痺の予後診断から急性期の薬物治療、亜急性期の顔面神経減荷術、慢性期のリハビリ、そして陳旧期の顔面神経再建まで、それぞれのエキスパートにご講演いただきます。1時間半聴講すればあなたも顔面神経麻痺のエキスパートです。
2019/05/10 15:20〜17:20 第3会場