2016年の厚生労働省の調査によると、医療施設に従事する医師数は304,759人で男性医師は240,454人(78.9%)、女性医師は64,305人(21.1%)である。学校基本調査(文部科学省)医政局医事課試験免許室調べの結果、女性医師の割合は2010年時点で19.7%であり、年々増加傾向である。また、診療科別にみると、耳鼻咽喉科は男女比が4:1となっている。日本医師会女性医師支援センターが全国の病院に勤務する女性医師10,373人を対象として2017年2月20日から3月31日までに行った調査では、耳鼻咽喉科女性医師は2.8%を占めていた。そのうち29歳以下、30歳代を若手女性医師とした場合、全体の56%と半数以上であり、大きな戦力となっている。
私の所属する昭和大学耳鼻咽喉科は男性医師51人、女性医師13人で女性は2割を占めており、全国の割合と比較し同程度であった。私が入職した平成27年度に耳鼻咽喉科において初めて女性主任教授が就任し、入局を決めたきっかけとなった。
私が医師を志したのは小学生高学年頃だった。生物の病態生理に興味を持っており、人の役にたつ仕事がしたいと考えていたため、大学受験のときも迷うことなく医学部を受験した。医師免許を取得し研修医のとき、皆からの信頼が厚く生き生きとしている耳鼻咽喉科女性医師と出会い、耳鼻咽喉科を志した。耳鼻咽喉科は、患者さんの年齢層や疾患も幅広く、外来から手術まで自分でこなすことができる魅力的な科である。現在、昭和大学病院から昭和大学横浜市北部病院へ3年前に異動となり、耳鼻咽喉科専門研修5年目となった。毎日忙しいが、一緒に働くスタッフや患者さんと接している時間はとても充実しており、耳鼻咽喉科を専門科にして良かったと感じている。
女性には妊娠、出産といった男性は経験しないライフイベントがある。私自身も昨年、結婚という人生の転機があった。配偶者は同じ職場の先輩耳鼻咽喉科医師であり、勤務内容などもお互い理解しているため、お互い助け合って生活ができている。しかし今後、妊娠、出産、子育てを経験する可能性を考えた場合、精神的・体力的な面で、大学病院で勤務を続けられるかどうか不安な気持ちがある。昭和大学の職員の就業規則では、勤務時間は1日実働7時間30分とし、1カ月平均し、1週37時間30分を超えないものとされている。始業および終業時刻は、原則として午前8時30分から午後5時で、休憩時間は午後0時から午後1時までである。耳鼻咽喉科の医療現場では急変や手術患者の対応など、時間帯を問わず対応しなくてはならない現状があり、実際には就業規則のとおりに働くことはとても難しい。また、大学病院で勤務していると主治医制を求める患者が多い印象があり、外来から手術まで対応してくれる常勤医が患者のニーズであると感じる。
日本医師会女性医師支援センターの「女性医師の勤務環境の現状に関する調査報告書」(2018年4月)によると、仕事を続ける上で必要と思う制度や支援策は、勤務環境の改善(96%)が一番に挙げられており、次いで子育て支援(88%)、復職支援(38%)であった。現在の職場には託児施設がなく、保育園を探さなければならない。また、当院では生後満1歳に達しない子を養育する場合は、所定の休憩時間のほか1日2回30分ずつの育児時間を取得できるが、仕事も育児も片手間ですることは難しく物理的にも現実的ではない。実際に当職場でも、妊娠出産後に常勤医として大学病院で勤務し続けることが難しく、復帰後1年後に非常勤医になった医師もいる。続けることが難しくなった理由としては、子供が集団保育で体調を崩して突発的な早退を余儀なくされたり、病児保育施設になかなか入れないことなどがあげられた。また、業務時間内に書類作成などの事務的仕事に追われ、実際の医療的な業務時間が削られている現状があり、それらの軽減、他職種での分担も必要だと思われる。非常勤勤務は、報酬面や福利厚生での制限があり、また都市部ではフルタイム勤務でなければ保育園に入れないなど、モチベーションの維持が難しい。
仕事を続けることで社会に貢献していきたい気持ちは男女ともに同じであるのにもかかわらず、女性特有のライフイベントが訪れたとき、それが閉ざされることは非常に残念なことである。「医学部入学における女子制限」の社会問題化は、女性医師の占める割合を飛躍的に増加させるものと予測され、男女を問わない社会のシステムの改善や働き方の多様化は急務である。
今年度専門医試験を受ける若手女性医師の立場から、ワークライフバランスの本音と建前を、過去の統計を参考に検討する。
浅野雅世
2013年3月 昭和大学医学部医学科卒業
2015年4月 昭和大学大学院医学研究科外科系耳鼻咽喉科博士課程入学
2015年4月 昭和大学病院 耳鼻咽喉科勤務
2017年4月 昭和大学横浜市北部病院 耳鼻咽喉科勤務
2019年3月 昭和大学大学院医学研究科外科系耳鼻咽喉科博士課程修了
2019年4月 昭和大学横浜市北部病院 助教
2019/05/10 15:20〜17:20 第2会場