アブミ骨動脈遺残には内頸動脈や中硬膜動脈の走行異常のほか、耳小骨奇形や顔面神経の走行異常を伴うことが知られる。今回経験した耳小骨奇形を伴うアブミ骨遺残例について報告する。
症例は29歳男性で、以前から左耳閉感を自覚していたが、左難聴が増悪したため精査加療のため来院した。聴力検査では左耳の3分法平均聴力が 41.7dBで、気骨導差が 21.7dBであり、アブミ骨筋反射は陰性であった。術前の側頭骨 CTでアブミ骨上部構造の奇形と考え、試験的鼓室開放術を行った。術中に岬角からアブミ骨前脚を貫き顔面神経管に至る索状物を認め、アブミ骨動脈の遺残と判明した。底板の可動性は良好であったため、アブミ骨動脈は切断することなく、鼓室形成術Ⅳc型とした。術後1年を経過し左耳の3分法平均気導聴力は 20dBに改善した。
アブミ骨動脈遺残例の手術ではアブミ骨動脈の処理が問題となるが、結紮や切断には止血困難や顔面神経麻痺の可能性が知られる。本症例ではアブミ骨動脈を温存し、アブミ骨底板上にコルメラを接合することが可能であった。
2019/05/11 13:50〜14:50 ポスター会場