症例は64歳女性。双極性障害の既往があり、リチウム( Li)を含む向精神薬を内服していた。腰椎すべり症に対し手術を施行され創部経過は良好だったが、術後から軽度せん妄状態にあった。第13病日に発熱、意識レベル低下により ICU入室となった。脳血管障害などを示唆する所見には乏しく、血中 Li濃度高値を認め、長期間の Li内服と鎮痛に使用された NSAIDsの相互作用による Li中毒が疑われた。血液透析も行われ第22病日には Li血中濃度は基準値未満へ低下し、意識レベルは改善したが、めまい感に伴う嘔気が改善せず当科を受診した。眼位は上方へ変位し、緩徐な下眼瞼向き眼振を認め、輻輳麻痺も伴っていた。末梢前庭疾患や小脳疾患を示唆する所見には乏しく、 Li中毒による眼球運動障害が疑われた。発症後2カ月が経過した現在もめまい感と嘔気により ADL低下は遷延している。双極性障害では Li製剤を使用することはあるが、治療域が狭く、中毒域では重篤な合併症を来し得る。血中濃度が改善しても症状が遷延する場合もあり、その所見や特徴を文献的考察も加え報告する。
2019/05/09 10:50〜11:40 第4会場