第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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先天性難聴は新出生児1,000人に1人に認められる頻度の高い疾患である.先天性難聴の原因のうち少なくとも50%は遺伝子変異によるものであると考えられており,先天性難聴の原因として最も可能性が高いのが遺伝性難聴と考えることができる.
遺伝性難聴はその原因遺伝子変異ごとに難聴の程度や,難聴の進行の程度,随伴症状の有無などの臨床的特徴が異なるため,遺伝子診断を行い原因遺伝子変異を同定することは,予後の予測や治療法の選択に有用である.しかし,遺伝性難聴の原因としては,現在までに約100種類の原因遺伝子が同定されており,臨床症状から原因遺伝子変異を推定することは容易ではなく,難聴という共通の症状を呈する様々な疾患が混在している.従来,このように遺伝的異質性の高い疾患に関しては解析が困難であったが,ここ数年の遺伝子診断技術の進歩により,多数の原因遺伝子を網羅的に解析し難聴の原因を同定することが可能となってきた.
我々の研究室では,「難聴の遺伝子診断」に関する研究成果を臨床に還元することを目標に,日本人難聴患者1500症例の遺伝子変異スペクトラムを基に,日本人難聴患者に比較的高頻度で認められる13遺伝子46変異をインベーダー法によりスクリーニングする検査を開発し,その臨床応用に向け取り組んできた.インベーダー法を用いた遺伝学的検査は,2008年に先進医療「先天性難聴の遺伝子診断」として申請し,承認を受けて臨床応用を開始し,2012年の保険点数改訂により「遺伝学的検査(先天性難聴)」として保険収載され健康保険での検査が可能となり,全国の大学病院などで日常の臨床検査ツールとして実施されるようになった.
さらに,診断率の向上を目的に次世代シークエンス法の臨床応用に向けた検討を行い,次世代シークエンス法が十分な解析精度を有していることを明らかにした.この成果をうけて2015年8月からは,検査法が次世代シークエンス法とインベーダー法の併用となり,解析対象を19遺伝子154変異と大幅に拡張することで,変異検出率,確定診断率ともに約10%向上させることができた.また,既知原因遺伝子変異のヘテロ接合体変異の見出された症例から,もう一つの新規変異が認められるケースも多数あり,今後の研究の継続によりさらに診断率を向上させることが可能であると期待される.

2016/06/23 14:30〜16:00 第1会場

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