第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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喉頭の欠損は事故や外傷,癌に対する切除手術などによって起こり,最たるものが喉頭全摘であるが,これに対する方策は全くない.喉頭移植が長年米国を中心に研究されてきているが,免疫抑制剤の使用が障壁となり一般臨床での普及には目途が立っていないのが現状である.喉頭は粘膜,筋肉,軟骨からなる複合組織であり,これらを個別に作ることは至難の技と言え,一期再生する手段が望まれる.近年の脱細胞技術は,免疫抑制剤の要らない移植医療を実現化する可能性が期待されており,実際,脱細胞気管を用いた気管移植手術がロンドンでヒトに対して行われ注目を浴びている.喉頭の組織は気管よりかなり複雑であり,必ずしも容易ではないが,脱細胞喉頭土台を用いることで将来喉頭全摘後の再生医療も夢ではないと考えられる.
脱細胞土台としてブタ膀胱由来脱細胞細胞外基質(UBM)がピッツバーグで開発され商品化が進んでいる.この土台はコラーゲンやフィブロネクチンなど多種類の細胞外マトリックスと,線維芽細胞増殖因子や血管内皮増殖因子などの細胞増殖因子を内包しており,再生土台としての高いポテンシャルが指摘されている.我々は,イヌの喉頭の垂直半切モデルを用いて,UBM移植による再生実験を行った結果,免疫反応・異物反応は殆ど起こらず,早期の声帯粘膜隆起の形成と,一期的な筋肉・軟骨再生を確認した.声帯粘膜の粘弾性は個体差があったが,喉頭半切後の革新的な再生素材として有望と考えている.
喉頭全摘後の再生手段としては,全喉頭脱細胞土台が必要である.脱細胞の方法には化学的脱細胞と物理的脱細胞手法があり,脱細胞効率と細胞外基質の温存とのバランスが必要である.我々はラットの喉頭を用いてSDSを用いた化学的脱細胞を試みている.溶剤浸透法によりほぼ完全に脱細胞が可能で,かつ,軟骨,筋肉,粘膜の基質保持が可能であった.溶剤の濃度や浸透時間など至適方法の確立は必要であるものの,この様な脱細胞喉頭土台の開発は喉頭全摘後の再生医療に有用と考えられる.

2016/06/23 14:30〜16:00 第1会場

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