第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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好酸球性中耳炎,副鼻腔炎は気管支喘息を合併することも多く,局所の好酸球性炎症ではなく,unified airway diseaseとして捉えられる難治性疾患である.炎症局所では,好酸球性ムチンの産生増加,粘膜障害によるバリア機能の破壊,リモデリング,正常細菌叢の破綻を特徴とする.治療方法は,副鼻腔炎に対する手術療法を除いてほぼ共通しており,局所ステロイド治療を中心にロイコトリエン拮抗薬の内服と,急性増悪期にはステロイド全身投与と抗生剤の投与が行われる.
現行治療の問題点としてステロイド全身投与は,有効な治療法であるが継続的に行うには副作用もあり,できるだけ短期間にとどめ局所ステロイド治療で対応する必要がある.しかしながら局所ステロイド薬を有効に用いるために好酸球性ムチンや壊死物質をできるだけ除去する必要があり,局所洗浄治療が勧められているがその粘性のため難渋することも多い.またバリア機能の破壊,抗生剤の乱用によって正常細菌叢は破綻し,MRSAや緑膿菌などの耐性菌が検出される症例も多く,炎症のコントロールを一層難しくしている.そのため局所治療において粘性ムチンを除去し,細菌感染を抑え,正常な細菌叢,宿主の粘膜バリアを回復する,抗炎症作用のある洗浄剤があれば,その効果に加え局所ステロイド治療の効果もさらに高まるものと考えられる.
そこで我々は卵白リゾチームを多糖修飾によって高機能化する技術に着目した.リゾチームは,すでに臨床の場でも洗浄剤として使用されており,一部のグラム陽性菌に対する溶菌作用,感染炎症部位に対する清浄作用(ムチン分解作用),抗炎症作用(組織修復作用,気道絨毛運動賦活作用)を持ち,多糖体修飾を行うことで耐熱性,乳化特性,抗酸化性の獲得と抗菌スペクトラムの拡大が見込まれ有用性があると考えた.今回我々は,多糖体として安全性が確立されているグアガム由来のガラクトマンナン,甲殻類由来のキトサンを用いてリゾチーム―多糖体複合体を作成し,その抗菌性の評価と,安全性確認のためハートレイ系モルモットを使用した内耳毒性試験を行ったので報告する.リゾチーム―多糖体複合体は生来ヒト粘膜に備わった抗菌,抗炎症蛋白であるリゾチームを強化した高機能タンパク質であり,耐性菌に対する抗菌性を有し,内耳毒性がなければ局所治療薬(洗浄剤)として効果が期待でき,今後臨床試験を行う予定である.

2016/06/23 14:30〜16:00 第1会場

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