第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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1.はじめに
近年,臨床の現場では感染の遷延化・難治化が起こり加療に難渋するケースは決して少なくない.その予防と医療経済の観点からもワクチンの開発は急務である.ワクチン開発においては,投与経路と広域スペクトラムをもつワクチン抗原の開発の2点が重要である.
2.投与経路に関して
一般的なワクチンの投与経路である皮下注射では,血中の抗原特異的IgGは誘導できるが,粘膜面への抗原特異的IgAは誘導できないため,粘膜面でも病原の侵入を阻止することはできない.耳鼻咽喉科領域での感染症としては急性中耳炎があるが,鼻咽腔に定着する細菌をワクチンで予防することができれば急性中耳炎は減少する.急性中耳炎の起炎菌である肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラクセラ・カタラーリスがある.肺炎球菌ワクチンは,2009年に導入されたPCV7(プレベナー®)が2013年より定期接種となり,また7価から13価に変更された.他国では肺炎球菌由来の急性中耳炎は減少したと報告されているが,ただ非血清型感染は増加してきている.またインフルエンザ菌に対するワクチンは2008年に導入されたが,誤嚥性肺炎を念頭に置いており,急性中耳炎はほとんどが無莢膜型インフルエンザ菌であり,予防効果は少ない.
近年粘膜ワクチンが注目され,経鼻投与・舌下投与・経皮投与などが国内外で研究されている.経鼻投与に関してはインフルエンザ生ワクチン(FluMist®)が米国では臨床使用されている.しかし接種対象者は,健康な5歳から49歳までで他に禁忌対象疾患も多く,本邦では2016年現在承認されていない.
様々な投与経路を実験的に検討し,それらのデータを踏まえて実地診療につなげていく必要がある.我々の教室では,経鼻・舌下・経皮投与に関して実験動物を用いて検討している.今回はそのなかでも経皮投与を中心に報告する.その特徴は注射である皮下投与と比較して,痛みを伴わない・医療廃棄物がでない・アナフィラキシーをきたさないなどの利点がある.ただし皮膚はバリアーとしての一面もあるため,抗原提示細胞へ抗原を到達させるために抗原の性質,アジュバンド,塗布方法を工夫する必要がある.
3.広域スペクトラムをもつワクチン抗原の開発
当教室ではホスホリルコリン(以下PC)を使用し臨床応用を目指して基礎研究を行っている.PCは,多くの細菌の細胞膜表面に発現しているタンパクであり,PAFレセプターを介して細胞接着に関与する.これらに対する粘膜免疫応答を有効に誘導することができれば,広域な細菌防御の可能性がある.本シンポジウムでは粘膜ワクチンのうちPCの耳介を介した経皮免疫による粘膜免疫応答や細菌接着に関する基礎データを中心に検討し報告する.将来,広域スペクトラムをもつワクチンが上市することで急性中耳炎など耳鼻咽喉科疾患のみならず感染症予防の一つの選択肢が広がることを期待したい.

2016/06/23 14:30〜16:00 第1会場

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