第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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嗅覚,味覚も視覚,聴覚など他の感覚と同様,加齢とともに低下する.しかし,他の感覚と異なるのは,嗅覚,味覚ともに,急速に低下が生じた場合を除き,高齢者自身が気づきにくいことである.われわれが地域の高齢者を対象に行った調査では,60歳を超えると約60%の被検者がにおい同定検査で嗅覚低下を認めていたが,事前に行った自記式アンケートで嗅覚低下を自覚する被検者は10%程度であった.
嗅覚障害の原因で最も多いのは,慢性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎などの鼻副鼻腔疾患であり,次いで感冒後嗅覚障害,外傷性嗅覚障害と続く.原因不明の嗅覚障害も少なからず存在し,そのなかに加齢に伴う嗅覚障害が含まれる.ただし,加齢によるものと思われても,副鼻腔炎や嗅裂炎を原因とする嗅覚障害も存在するため,鼻内の内視鏡検査やCTなどの画像診断は必須である.また,MRIを施行すれば,中枢性嗅覚障害の診断に有用であるのみならず,鼻副鼻腔の状態も観察できるため,CTを省略することができる.高齢者であるからと言って,加齢性嗅覚低下と決めつけてはならない.
味覚低下は嗅覚低下よりもその原因決定が困難である.味覚低下の原因は,特発性,亜鉛欠乏性,薬剤性,糖尿病などの全身疾患性,口腔乾燥を含めた口腔内疾患,心因性と多岐にわたる.また,ある種の薬剤や全身疾患が亜鉛欠乏を招いて味覚障害となる可能性もある.そして,その原因を特定する手段がほとんど存在しないのが現状である.高齢者の場合,上記原因のいずれも背景として単独あるいは複数有していることが多く,原因特定をさらに困難とさせ,治療を難しくさせている.
嗅覚味覚低下が最も影響を及ぼすのは食事である.嗅覚低下,味覚低下いずれも食欲の低下を招き,全身疾患の増悪や,患者の身体状態ならびにQOLの低下をもたらすことは想像に難くない.そして嗅覚,味覚低下の悪化を招き悪循環をきたす.前述の通り,治る可能性のある嗅覚低下,味覚低下の可能性もあるため,診断をおろそかにしてはならない.また,嗅覚低下はアルツハイマー病やパーキンソン病など神経変性疾患の早期症状であることが知られており,特に高齢者ではこれらの疾患の合併の可能性について注意を払う必要がある.
本セミナーでは,高齢者における嗅覚・味覚低下の診断のコツ,加齢と神経変性疾患による嗅覚・味覚低下との鑑別のポイントなどについて述べたい.

2016/06/24 10:30〜11:00 第1会場

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