第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

プログラム

タイトル

はじめに
鼻副鼻腔領域は,解剖学的バリエーションが多く,後部篩骨洞,蝶形骨洞領域ではOnodi cell(以下OC)の有無,視神経管の走行,露出部位などが解剖学的に重要な特徴となる.鼻副鼻腔手術において,OCを有する症例では視神経管がOC内に露出することが多く,注意が必要である.視神経管隆起が際立つ場合はさらに慎重な操作が必要となる.また,OCによって蝶形骨洞は内側下方に圧排され,自然口を同定することが困難となる場合がある.視神経管の走行の解剖学的特徴の一つとして,Anterior clinoid processが気泡化している,いわゆるPneumatized anterior clinoid process(以下PACP)が挙げられる.PACPを有する場合,視神経管は外側壁よりもやや内側を走行するため,その周囲の操作を行う際は慎重に行わなくてはならない.日常診療においてOCの有無,視神経管がどの部位で露出しているか,PACPの有無は非常に重要であると考えた.また,OCによって,蝶形骨洞が圧排されるため,OCの有無が蝶形骨洞病変,ひいては副鼻腔病変に影響をおよぼす因子となるかに着目した.そこで,今回我々は,1)OCの頻度,2)視神経管の露出部位,3)PACPの頻度,4)OCと蝶形骨洞病変,副鼻腔病変との関連性,について自験例を解析し,文献的考察を加え,報告する.
対象と方法
対象は2011年4月から2014年3月に大阪厚生年金病院で撮影した成人鼻副鼻腔CT,237例,474側である.外傷,悪性腫瘍,術後症例は除外した.以下の4項目について後ろ向きに検討した.
1)OCの頻度
2)視神経管の露出部位
3)PACPの頻度
4)OCと蝶形骨洞病変,副鼻腔病変との関連性
結果
1)OCは91例(38.4%),130側(27.4%)に認めた.
2)視神経管の露出部位,A:後部篩骨洞のみ97側,B:蝶形骨洞のみ300側,C:後部篩骨洞,蝶形骨洞両方49側,D:視神経の露出なし28側だった.視神経管は蝶形骨洞に露出していることが多いと理解されているが,後部篩骨洞に視神経管が露出しているものはA,Cの147側(31%)に認めた.視神経管が後部篩骨洞に露出していなければ(BもしくはD),全例OCは陰性であった.
3)PACPは103側(21.7%)に認めた.
4)OCを有し,①蝶形骨洞に病変を認めたものは25側(5.3%),②上顎洞,篩骨洞,前頭洞のいずれかに病変を認めたものは,61側(12.9%),③病変を認めないものは44側(9.3%)であった.OCを有さず,①蝶形骨洞に病変を認めたものは35側(7.4%),②上顎洞,篩骨洞,前頭洞のいずれかに病変を認めるが,蝶形骨洞には病変を認めなかったものは,153側(32.3%),③病変を認めなかったものは156側(32.9%)であった.
考察
CTを用いた検討において,OCの頻度は報告によって大きな相違がある.その頻度は本邦報告例では7%–37.5%,海外報告例を含めると7%–50%と大きな差を認める.人種間での差異がかなりあり,アジアからの報告ではほとんどが20%以上であるのに対し,ヨーロッパからの報告では全報告が20%未満という結果だった.
また,視神経管が後部篩骨洞に露出していたものは,147側(31%)に認め,鼻副鼻腔手術の際にはOC同様,注意を要する.さらにOCを認めないが,視神経管が後部篩骨洞に露出するものは16側(3.4%)に認めた.術前のCT読影の際には各々のcellの関係を把握することは重要であるが,後部篩骨洞,蝶形骨洞領域では視神経管の走行,特に露出部位についても注意を払う必要があると考えられた.当科での検討では,OCを有する症例では,蝶形骨洞病変や副鼻腔病変をきたす可能性が高いことが統計学的に有意であった.OCによって,蝶形骨洞の自然口が狭小化し,蝶形骨洞に病変をきたす可能性があることが予想される.また,その解剖学的変異によって,副鼻腔全体にも影響を及ぼしうることが示唆される.

2016/06/23 13:50〜14:20 第1会場

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