第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

プログラム

タイトル

はじめに
頸部郭清術後患者のQuality Of Life(QOL)を低下させる要因として副神経障害は重要な位置を占めており,術後のリハビリテーション(rehabilitation: RE)の重要性が報告されている.副神経切除例だけでなく,温存例においても早期に適切なREが行われないと癒着性関節包炎をきたし,肩関節の可動域(Range Of Motion:ROM)制限や疼痛につながる.頸部郭清術後にREを施行した群としなかった群について,術後の肩の症状や機能を比較した報告がある.しかし,術後ある程度の期間を経てからREを施行した群と,早期にREを施行した群を比較した報告は渉猟しうる限りない.RE施行時期の違いや副神経温存の有無によって,RE前後で肩関節ROMや痛みの改善度に違いがあるかを検討した.
対象
副神経領域を含む頸部郭清術の施行後30日以内にREを施行した症例(A群)17例/21肢(副神経温存16肢,切除5肢)と,半年以上経過した後にREを施行した症例(B群)12例/18肢(副神経温存7肢,切除11肢)を比較検討した.(当院では2008年4月から,頸部郭清術後30日以内に肩関節のREを行っている.)
方法
①肩関節ROM(自動屈曲角度と自動外転角度),②肩や首が痛むかどうかのアンケート(全くなし:5点,ほとんどない:4点,少し:3点,かなりある:2点,非常にある:1点)の2項目を,RE施行時の初回評価と現時点における最終評価,RE施行時期の違い,副神経温存の有無で比較検討した.
結果
1.全症例の肩関節ROMの比較
1)RE施行前後における肩関節ROM(自動屈曲・自動外転)改善度の比較
A群においては最終評価時,屈曲,外転とも初回評価時に比し有意な改善を認めた.B群においては,いずれの項目もRE前後で有意な改善を認めなかった.
2)RE施行時期による肩関節ROM(自動屈曲・自動外転)改善度の比較
初回評価時はA群とB群で屈曲,外転とも有意な差を認めなかったが,最終評価時,A群はB群に比し,いずれの項目も有意な改善を認めた.
2.副神経温存の有無による肩関節ROMの比較
1)RE施行前後における肩関節ROM(自動屈曲・自動外転)改善度の比較
副神経を温存したA群は最終評価時,屈曲,外転とも初回評価時に比し有意な改善を認めた.副神経を切除したA群,副神経の温存の有無にかかわらずB群では,いずれの項目もRE前後で有意な改善を認めなかった.
2)RE施行時期による肩関節ROM(自動屈曲・自動外転)改善度の比較
副神経を温存した群では,初回評価時はA群とB群で屈曲,外転とも有意な差を認めなかったが,最終評価時,A群はB群に比し,いずれの項目も有意な改善を認めた.副神経を切除した群では,初回評価時はA群とB群で屈曲,外転とも有意な差を認めなかったが,最終評価時,A群は,いずれの項目も有意な改善を認めた.
3.肩や首が痛むかどうかのアンケート
A群は最終評価時スコアがRE後,初回評価時スコアに比し,有意な改善を認めた.B群は初回評価時スコアと最終評価時スコアとの間で有意な差はなかったものの,改善傾向を認めた.両群をそれぞれ副神経の温存切除別にみると,RE前後で明らかな有意差を認めたのはA群の副神経を温存した群のみであった.
考察とまとめ
頸部郭清術後,副神経が温存されていても,早期にREを施行しなかった場合肩関節ROM制限を認めた.術後半年以上経過してからREを施行しても改善は認めなかった.一方,術後30日以内にREを施行した場合,肩関節ROMの改善および肩や首の痛みの改善を認め,早期からのRE施行の重要性が再確認された.また術後ある程度の期間を経てからでもREを施行することにより,肩や首の痛みを緩和できる可能性が示された.

2016/06/23 13:50〜14:20 第1会場

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