第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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中咽頭癌はHPV陽性とHPV陰性に二分され,両者は全く異なる独立した疾患である.HPV陰性中咽頭癌は喫煙・飲酒が誘因となる古典的な頭頸部癌である.一方,HPV陽性中咽頭癌は高リスク型HPVが扁桃陰窩の基底細胞に感染して発生し,HPV16型が原因の殆どを占める.性交渉のパートナー数が多いほど,特にオーラルセックスのパートナー数が多いほどHPV陽性中咽頭癌のリスクは増大する.近年HPV陽性中咽頭癌は世界的に増加傾向にある.本邦においても同様であり,HPV陽性中咽頭癌は中咽頭癌の約半数を占める.HPV陽性中咽頭癌の好発部位は口蓋扁桃および舌根扁桃であり,一般に原発巣は小さく,頸部リンパ節転移の頻度が高い.扁桃陰窩の基底細胞が腫瘍の起源となることから,原発不明癌頸部リンパ節転移の像を呈することが少なくない.また,転移リンパ節が囊胞性であることも多い.こうしたことから特に頸部リンパ節転移が囊胞性で単発性である際に,臨床の現場で問題が生じる.穿刺吸引細胞診により癌細胞が証明されない囊胞性転移リンパ節が往々にして側頸囊胞と診断される.HPV陽性中咽頭癌の患者は喫煙・飲酒歴がない,あるいは喫煙・飲酒量が少なく,比較的若年で健康なことが多い.即ち,HPV陽性癌の患者像が従来の頭頸部癌の患者像と乖離していることが,混乱に拍車をかけている.実地臨床で頸部の囊胞を診る場合,常にHPV陽性中咽頭癌の囊胞性リンパ節転移を念頭に置く態度が肝要である.メタ解析により,HPV陽性中咽頭癌はHPV陰性中咽頭癌と比べ有意に予後が良好であることが確立されている.そこで,治療強度を下げた低侵襲治療を行うことにより,予後を悪化させることなく後遺症の軽減を図れるとの仮説が提唱され,国内外でその仮説を検証するための臨床試験が進行している.しかし,低侵襲治療はあくまで臨床試験の段階であり,現状では実地臨床として行うべきではない.ただし,舌全摘・喉頭全摘を要するようなHPV陽性中咽頭癌に対して,そのような手術を第一選択とすることは望ましくない.先ずは化学放射線療法で臓器温存を図るべきである.尚,HPV陽性の判定法としてはウイルスタンパクであるE6/E7の検出が望ましいが,技術的に困難である.次善策としてE6/E7のmRNAの同定があるが,煩雑な操作を要し検体によっては困難なこともある.したがって,ウイルスDNAをPCRやin situ hybridizationで同定する方法,あるいはp16の免疫組織化学が汎用されるが,一般にp16陽性であればHPV陽性と考えてよい.

2016/06/23 11:30〜12:00 第1会場

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