第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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1.概念
本症候群は,上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲に骨欠損が認められる疾患単位であり,その概略は以下のとおりである.
2.臨床症状
瘻孔部分が内耳において正円窓,卵円窓に次いで第三の窓として働き,音刺激や圧刺激によって外リンパ還流に変化が生じてめまいや視野の偏倚を感じる.代表的な前庭症状にはTullio現象と瘻孔症状がある.Tullio現象や瘻孔症状は瘻孔のサイズが大きいほど認められやすいといわれているが,その頻度は必ずしも高くない.
3.神経耳科学的検査
1)標準純音聴力検査
時に伝音難聴(気導―骨導差)および感音難聴を生じる.伝音難聴は,上半規管の裂隙が第三の内耳窓となり,骨伝導が増幅されることにより起こる.本症候群では,特に250 Hzにおける気導―骨導差がみられやすい.
2)前庭機能検査
2)-a.Tullio現象
Tullio現象の記録は,オージオメーターを用いて周波数別に音刺激を与えながら,暗所開眼条件下にサーチコイルや電気眼振計(ENG)を用いて行われることが多い.誘発する音刺激は,500 Hzから2000 Hzの周波数で100 dB hearing level(HL)から110 dBHLの音圧がしばしば用いられるが,低い周波数刺激の方がTullio現象は誘発されやすい.
2)-b.瘻孔症状
瘻孔症状の誘発には,Polizer球を用いる方法やValsalva法による圧刺激が一般的である.Valsalva法による刺激には鼻をつまんで息こらえをするValsalva刺激と,声門を閉じるように息こらえをするValsalva刺激がある.両者では,上半規管膨大部に加わる圧の方向は逆になる.
2)-c.前庭誘発筋電位(cVEMP)検査
cVEMPの反応閾値は80 dB程度である.上半規管裂隙症候群においては,cVEMPの振幅が増大と反応閾値の低下が高率に見られる.
3.画像所見
上半規管裂隙症候群の裂隙は,側頭骨高分解能CTでスライス幅0.5 mmの冠状断によって確認されることが多い.冠状断・軸位断CTで裂隙の判断が難しい例では,上半規管に平行な面に沿って画像を再構築するとよい.
4.治療
保存的治療と手術療法がある.保存的治療には耳栓による防音と鼓膜換気チューブ留置がある.手術療法は,側頭開頭や乳突洞経由で上半規管内に骨パテをplugging,裂隙部の表面をresurfacingまたはcappingする方法がある.Pluggingは症状の改善率は高いが,pluggingでは術側の上半規管の機能は失われる.
本臨床セミナーでは,上半規管裂隙症候群の症例を紹介し,診断に至るまでの手順について解説を行う.

2016/06/23 10:00〜10:30 第1会場

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