内部蛭症とはヒルが体内に侵入して発症する疾患で,国内では稀にハナビルによる内部蛭症が報告されている.寄生する部位としては鼻腔が多いが,極めて稀に鼻腔以外の気道に寄生することがある.今回我々は寛解増悪を繰り返す嗄声を主訴に受診し,喉頭声門下に寄生したハナビルによる内部蛭症を経験した.
症例は73歳男性.1ヵ月前よりきっかけなく嗄声が出現するようになった.呼吸困難はなく,軽度の咽頭痛と嗄声が悪化したり改善したりを繰り返したため複数の医療機関を受診したが,異常は指摘されなかった.X年10月某日近医耳鼻咽喉科を受診したところ,喉頭の異常を指摘され当科紹介となった.喉頭内視鏡検査では声門下から声門上に進展する黒色の有茎性腫瘤を認めた.表面に節状の構造物があったため,腫瘍ではなく生物などの異物の可能性を考え,同日全身麻酔下に喉頭直達鏡を行った.顕微鏡で観察したところ,前交連より5ミリほど声門下に吸着したヒルを認め,触診すると激しく運動し始めた.生体のヒルによる異物と診断し,まず虫体にキシロカインをふりかけて動きが鈍ったところに,吸着部位の虫体内にキシロカインを局注して,吸着力が鈍ったところを見計らって鉗子で摘出した.吸着部位は出血もなく,喉頭直達鏡を抜管して,手術を終了した.術後嗄声は改善し経過良好にて翌日退院した.
内部蛭症を起こすヒルの種類は日本国内においてはハナビルが唯一である.ハナビルの生息域はアジア熱帯域を中心に広く分布し,日本では奄美大島・南九州などが知られている.患者はけもの道付近の湧水をよく飲んでいたと話していたため,その際にハナビルの幼生を飲み込みたまたま声門下に吸着したものと考えられた.鼻腔に吸着したハナビルによる内部蛭症は鼻出血などの症状があるが重篤な病態になることは稀である.しかし,喉頭や気管に発生した内部蛭症は呼吸困難の可能性があり早急な治療が必要である.
2016/06/24 14:20〜15:08 P42群