第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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甲状腺乳頭癌は一般に10年生存率が90%を超える比較的予後良好な癌の一つとして認識されているが,稀に極めて予後不良の未分化癌への転化例がある.ひとたび未分化転化を来した場合,様々な施設で集学的治療が施行されてはいるものの,ほとんどの症例で1年以上の生存は困難であり,十分な治療効果は得られていない厳しい現状がある.今回我々は頸部リンパ節が未分化転化を来した症例を経験したので報告する.
症例は91歳女性.16年前に甲状腺乳頭癌で甲状腺全摘,傍気管郭清術施行された既往あり.その他の既往歴は高血圧,高脂血症,心房細動.X年1月より左頸部のしこりを自覚し,徐々に増大傾向を認めたため,同年5月下旬,近医耳鼻咽喉科を受診し,6月上旬当科紹介受診となった.左頸部に可動性不良な腫瘤を触知し,造影CTでリンパ節転移が示唆された.穿刺吸引細胞診で低分化癌の診断であった.原発不明癌も考慮しPET-CTを施行したところ左頸部リンパ節以外に異常集積は認めず,同年6月下旬,左頸部郭清術を施行した.病理組織学的診断の結果は,乳頭癌成分と未分化扁平上皮成分の混在する,いわゆる甲状腺乳頭癌の未分化転化と考えられた.極めて高齢であることを考慮し,追加治療は施行せず,厳重に経過観察を行う方針とした.術後5ヵ月経過した同年12月上旬,左頸部リンパ節の再腫脹を認め,造影CT施行したところ左頸部リンパ節転移,両肺に多発肺転移を認めた.現在,2015年3月に厚労省に承認された新規分子標的薬,レンバチニブを投与し経過観察中である.
甲状腺未分化癌は極めて予後不良な疾患であるが,早期に根治切除ができた場合長期生存を得られたという報告もあり,急速増大する前に切除することが重要である.そのために,本症例のように転移巣のみが未分化転化している甲状腺乳頭癌症例が存在することを念頭に置いて迅速に診断治療にあたることが肝要である.

2016/06/24 13:50〜14:20 P41群

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