第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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滑膜肉腫は今なお細胞起源の確定されていない悪性間葉系軟部腫瘍で,20~40歳代の四肢近傍に好発し頭頸部領域からの発生は3~10%程度と比較的稀である.今回我々は当初甲状腺未分化癌と診断して集学的治療を行ったが,その後の臨床経過から病理見直しを行い,免疫染色を追加し滑膜肉腫の診断に至った症例を経験したので報告する.
症例は49歳男性,嗄声を主訴に受診した.右前頸部に可動性制限のある4 cm大の腫瘤を触知し,右声帯麻痺を認めた.CTで甲状腺右葉下極内に気管食道溝に進展する充実性腫瘤を認め,気管膜様部浸潤が示唆された.FNAにて甲状腺乳頭癌を疑う細胞所見であり甲状腺全摘術,気管全層切除,胸鎖乳突筋弁による閉鎖を行った.切除標本の病理組織診断は未分化癌であり,PETで他部位に病変を認めず,甲状腺原発の未分化癌と診断した.術後化学放射線治療を行い,パクリタキセル単剤による維持化学療法を初回術後1年時まで行った.数ヵ月で増大傾向を示した左肺結節に対して初回術後2年4ヵ月時に左肺区域切除を行い,頸部病変と同様の組織診断であった.更に右肺にも小結節を認め増大傾向もあったため,甲状腺未分化癌の肺転移と判断して初回術後2年5ヵ月時からレンバチニブ投与を開始し,投与開始後2ヵ月で病変のわずかな縮小を認めた.甲状腺未分化癌の肺転移としては緩徐な進行であったため病理組織診断を再検討したところ滑膜肉腫の可能性が指摘された.滑膜肉腫の診断に有用とされるTLE1免染陽性であり,甲状腺またはその近傍組織原発の単相型滑膜肉腫との診断に至った.
滑膜肉腫は一般に発育は緩徐であるが血行性に肺転移を来すことが多い.上皮様細胞と紡錘形細胞の両方からなる二相型と,そのどちらかの成分のみからなる単相型の2つに分けられるが,単相型の診断は難しい時もあり,遺伝子診断が有用とされている.また近年TLE1免染の有用性が報告され,診断への応用が進みつつある.

2016/06/24 14:38〜15:14 P40群

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