第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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血腫は臨床経過や画像所見によっては腫瘍性病変との鑑別がしばしば困難である.今回我々は腫瘍性病変を疑い手術を施行し,口腔底血腫と診断した症例を経験したので報告する.
症例は34歳女性.8年前頃から右顎下部の腫瘤を自覚していた.腫瘤は増大傾向にあり,口腔底の疼痛と開口障害が出現し,近医を受診し精査目的で当院紹介受診となった.口腔底正中および,右顎下部に弾性硬の腫瘤を触知した.口腔底粘膜は正常で,粘膜下腫瘤が疑われた.MRIでは,口腔底から右顎下部に境界明瞭,T1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号,辺縁部に造影効果のある長径51 mm程度の腫瘤を認めた.穿刺吸引細胞診を2回行ったが,赤血球のみであった.局所麻酔下で口腔内から生検を行ったところ病理組織学的所見では,血性成分を含む線維性組織で,悪性所見は認めなかった.診断・治療目的で,全身麻酔下口腔底腫瘍摘出術を施行した.口腔内からのアプローチで行った.腫瘤は周囲筋層と軽度癒着しており,筋層を一部つけて摘出した.閉創時に舌根部浮腫を認め,気道確保目的で気管切開術を行った.摘出組織の病理組織学的所見は,中心部は壊死物,出血,周囲に炎症性細胞浸潤,肉芽腫の散在を伴う線維性組織で腫瘍性病変は認めず,舌下間隙,顎下間隙に生じた口腔底血腫と考えた.臨床経過や画像所見より腫瘍性病変との鑑別が困難で,術後病理組織学的に血腫と診断された症例は頭頸部領域だけでなく肺や陰囊でも報告がみられた.本症例では外傷などの既往や抗凝固薬の内服がなく緩徐な経過であったため,血腫だけでなく腫瘍性病変も疑い手術を行った.
本症例の病態は上顎洞血瘤腫と同様に出血を反復し,血栓形成,壊死,線維化などが生じて緩徐に増大した血腫と考えられ,MRI,組織学的所見も血瘤腫に類似していた.血腫が疑われる場合でも疼痛などの症状や増大傾向がある場合は手術を検討すべきである.

2016/06/24 13:50〜14:44 P37群

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