第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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硼素中性子捕捉療法(BNCT)は,主に癌組織に集積した硼素(10B)と原子炉から抽出した熱中性子との核反応で生じる高LET放射線(α粒子)により癌細胞だけにエネルギーを集中させることが可能な癌治療である.理論上は硼素を取り込んだ癌細胞に細胞レベルでの高エネルギー粒子線治療が行えるため,従来の光子線による放射線治療と比し高い抗腫瘍効果が期待でき,さらに正常組織の照射に対する影響は少なく押さえられる.しかしながら本治療で用いられる熱・熱外中性子は,エネルギーが低く低速であり照射時は生体内で霧状に分布するため,従来の光子線や粒子線のようにコリメーターを用いた遮蔽による照射野内危険臓器の線量軽減を,物理的に行うのは非常に難しい.人体正常組織内における硼素薬剤分布はほぼ解明されてきているが,眼球およびその付属器周辺の分布は未だ明らかになっていない.そのためBNCT照射時の眼球線量規定は,照射時に発生する照射孔からのγ線の線量と血中10B濃度から推定される正常軟部組織仮想10B濃度を眼球に当てはめて予想線量をシミュレートし眼球被爆を予測する.したがってBNCT施行時照射野内に眼球が含まれる症例の場合は,症例個々の腫瘍の局在と予想10B濃度,BNCTに至るまでの病歴を考慮し,本治療を行うことで重度眼球障害が発生するリスクと抗腫瘍効果の予測を合わせて治療チームで検討を行った後,患者本人とご家族にそのリスクと,治療での患者利益を文章と口頭で説明し,文章による同意の得られた症例のみに照射している.今回我々は,頭頸部癌症例にBNCTを施行した症例のうち,照射野に眼球が含まれる再発頭頸部癌症例で,かつ,重度の眼球障害発生の可能性にも同意が得られた症例のうち,1年以上経過を追うことが可能であった3症例に対して,照射後の眼球所見と視力の経時的変化と照射線量の関連を検討したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

2016/06/24 13:50〜14:26 P35群

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