第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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【はじめに】耳鼻咽喉科・頭頸部外科医は救急救命の現場などで,頸部外傷を扱うことがある.そのなかには自殺企図などの自傷行為による頸部外傷も含まれる.頸部には頸動静脈,喉頭,気管,食道,脊髄などの重要臓器があり,頸部外傷は致命的となることもある.我々は頸部外傷(刺傷)に対して緊急手術を行い,深部の止血に難渋した症例を経験した.
【症例】51歳女性.自宅にて,包丁で両側頸部,左手首を自傷.母親が救急要請し,当院へ搬送された.創部の出血は,救急隊到着時にはほぼ止血されていた.薬物中毒やうつ病の既往があり,3ヵ月前にも自傷で当院に搬送され,頸静脈損傷や腹壁損傷に対して外科で緊急手術となった経緯がある.両側頸部にそれぞれ3 cm程度の刺創があり,右側は1ヵ所,左側は連続した2ヵ所であった.CTで左内頸静脈は刺入部レベルで走行確認不可能となっており,同部に血管外漏出を認めた.左鎖骨上窩には血腫を形成.同日全身麻酔下に緊急手術を行い,右上甲状腺動静脈,左内頸静脈の損傷を認めたため結紮切除した.閉創直前に,深頸筋膜よりさらに下方で拍動性出血を認めた.深部のため術野の展開が悪く,また解剖構造も不明であったが,出血部位を結紮し,なんとか止血できた.
【考察】頸部外傷においては,成傷器や成因によっては損傷が深部に達することがあり,特に刺傷では見た目の重症感と実際の重症度が乖離することがある.本症例の場合も初診時に活動性出血はなかったが,実際は深頸筋膜下の動脈損傷を来しており,全身麻酔下での緊急手術が適切であった.我々は深頸筋膜下の動脈損傷について解剖学的検討を行い,深頸動脈や椎骨動脈の分枝などが原因として挙げられた.耳鼻咽喉科医は深頸筋膜までの解剖には精通しているが,さらに深部の解剖を目にすることは少ない.頸部外傷においては,ときに深頸筋膜より深部の解剖学的知識が必要になることがある.

2016/06/24 13:50〜14:14 P33群

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