第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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【はじめに】術後感染症の防止は手術の成果を左右する重要な因子であり,術後感染予防の目的とするものは原則として手術操作が及ぶ範囲の術中汚染菌である.声門閉鎖術の対象となる患者は頻回の入院や抗菌薬投与により菌交代を起こしている事が多く,術野汚染菌の菌種も通常とは異なる可能性がある.今回,我々は当院で声門閉鎖術を行った患者の術前における保菌微生物について検討した.
【対象と方法】2007年6月から2015年12月までに当院で声門閉鎖術を行った症例のうち,術前に鼻汁,咽頭粘液,喀痰,吸引痰のいずれかの培養検査が行われた49例を対象とした.同定された菌種について,術前の患者状態や術後感染症との関連について検討した.
【結果】同定された菌種のうち最も多かったのは緑膿菌(30例)であり,黄色ブドウ球菌(17例,うちMRSAは6例)セラチア(10例)と続いた.他にも日和見感染症の原因菌や多剤耐性菌などが検出され,24例で複数の病原菌による混合感染を認めた.MRSAが検出された6例中5例は既に気管切開が行われており,バンコマイシンの術前投与は5例で行われていた.手術部位感染として膿瘍形成例が2例あり,1例は膿瘍から緑膿菌が検出された.一方,術野外感染症として術後に肺炎,尿路感染症,敗血症を発症した症例が8例あり,培養結果から緑膿菌,MRSA,セラチアなどが起炎菌と考えられた.瘻孔形成は1例で認めたが,術後1年以上経過してから生じており,感染との関連は不明であった.
【考察】声門閉鎖術の対象患者は緑膿菌をはじめとした種々の耐性菌を保菌しており,これらは手術部位だけでなく,術野外の感染症の原因菌にもなり得る.本術式の施行にあたっては術前の細菌検査の実施とそれに基づく適切な予防抗菌薬の選択が望ましいと考えられた.また,耐性菌の拡散を防止する上でも診察や処置時の標準予防策の遵守も重要と考えられた.

2016/06/24 14:14〜14:50 P32群

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