第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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クロムは光沢があり耐食性,硬性に優れており,古くからメッキ産業を中心として,クロメート加工工程,酸化剤,触媒剤,顔料などとして,幅広い産業分野で用いられてきた重金属である.メッキ等の加工工程で用いられる6価クロムは強い酸化作用を有するため,皮膚や粘膜が長期間曝露されることにより皮膚炎,皮膚潰瘍,鼻粘膜潰瘍,鼻中隔穿孔などが生じることは有名である.さらに,クロム作業従事者に発生した肺癌の報告は1932年のLehmann(ドイツ)に始まり,以降多くの疫学的検討により,職業性肺癌のひとつとして広く認識されるようになった.現在,国際がん研究機関(IARC)においてGroup1(ヒトに対する発癌性がある)に指定されている物質である.このように6価クロム曝露による肺癌の発癌との因果関係があることは知られているものの,クロム関連発癌の頭頸部癌の報告は極めて少ない.今回我々はクロムメッキ作業従事者に発生した上咽頭癌と原発性肺癌の同時重複癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は60歳,男性.職業歴はクロムメッキ加工工場に32年間の勤務歴あり.当科初診時所見として,鼻内に巨大な鼻中隔穿孔,上咽頭に腫瘤性病変,両頸部に多発リンパ節腫脹を認め,さらに画像検査で左肺下葉に20 mm大の結節影を認めた.精査の結果,上咽頭癌(cT1N2M0, StageIII),原発性肺癌(cT2N0M0, StageIB)の重複癌と診断し,集学的治療を施行した.現在治療は終了し,再発,遠隔転移を認めず経過観察中である.

2016/06/24 13:50〜14:26 P27群

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