第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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原発性線毛運動不全症(PCD)は常染色体劣性遺伝で,線毛運動を司る遺伝子の変異により生じる.全体の約半数に内臓逆位があり,難治性副鼻腔炎,中耳炎および気管支拡張症を伴い,男性では約半数に不妊を来す.本邦でのPCDの報告・診断頻度は低く,特に内臓逆位がない場合には診断に難渋することが多い.今回我々は,難治性副鼻腔炎をきっかけにPCDを疑った1例を経験したので報告する.
症例は13歳男性.生下時から乳児期にかけては,肺炎や鼻炎様症状を認めなかった.2歳時より繰り返す鼻汁と慢性的な湿性咳嗽が出現し,3歳時からは難治性の中耳炎に罹患するようになった.12歳時には慢性副鼻腔炎に対し,他院で内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)が2回施行されたが,副鼻腔炎症状は持続し,膿性鼻汁を主訴に翌年当科を紹介受診した.初診時,右鼻腔には巨大なポリープが存在し,左鼻腔には鼻中隔と下鼻甲介の間に強い癒着が見られた.副鼻腔CTでは,両側上顎洞に軟部陰影が充満し,蝶形骨洞は低形成であった.内臓逆位は認めなかった.3回目となるESSを当科で施行したが,術後3ヵ月には副鼻腔炎が再発した.胸部CTで両肺下葉に末梢気管支拡張像を認めた.血中IgGサブクラス,IgM,IgA値はいずれも正常であった.一方,鼻腔NO値は160 ppbと,患者家族と比較して著明に低値であった.また,線毛構造を電子顕微鏡で確認したところ,ダイニン内腕の欠損が疑われる所見を認めた.さらに,遺伝子検査でPCDの原因遺伝子の一つであるDNAH11にヘテロ変異が認められた.以上よりPCDが強く疑われ,現在マクロライド療法を続けながら経過観察中である.
非典型的な慢性副鼻腔炎,難治性中耳炎,持続する湿性咳嗽,気管支拡張像などの所見を認めた際には,PCDを念頭に置く必要がある.

2016/06/23 17:30〜18:06 P13群

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